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2015年7月25日土曜日
日英歴史家会議(AJC)プロシーディングズ
旧聞に属す、とお考えかもしれません。2012年9月にケインブリッジ大学トリニティホール学寮にて開催された第7回日英歴史家会議(AJC)ですが、その編集プロシーディングズは未刊行でした。諸般の事情が複合して、会議の後すみやかに刊行することかなわぬまま経過しておりましたが、この間の友人たちの奮闘努力により、ようやく公刊にいたりましたので、お知らせします。xii + 322 pp.の美麗な本です。
表紙写真は開催時のトリニティホールで、会議場は手前にみえる看板の矢印のとおり直行して歩いたなお先にありました。The hidden gem という渾名をもつこの学寮において、History in British History を共通テーマにかかげた有意義で楽しい会議が3泊4日にわたり実現したのは、なにより11名のAJC委員(x ページにお名前が列挙されています)とロンドン大学歴史学研究所(IHR)、そしてトリニティホール学寮長ドーントン教授の協力の賜物です。
じつは各セッションのコメント、また若手のペーパーについて収録できなかったものが少なくないことは残念至極です。もし時宜を逸したとのそしりがあれば、甘んじて受けます。巻末には Appendix として AJC の第1回(1994)~第7回(2012)のプログラムを収めました。これは後の刊行物ではなく実施時のプログラムによるもので、史料的な価値がないではないと思われます。
たしかに完璧とは言いがたい刊行物ですが、Preface の最後にお名前を刻印した方々の助力があってこそ日の目を見ることになりました。叱咤激励をいただいた皆さまに感謝いたします。
なお 今年8月10~11日には大阪大学中之島センターにて第8回日英歴史家会議(AJC)が開催されます。
→ http://ajchistorians.wix.com/ajc2015
この本は、会場でも頒布される予定です。 近藤和彦
2015年7月11日土曜日
『文化財の併合 : フランス革命とナポレオン』
むしろ新刊書で驚嘆し、おもわず姿勢を正したのは、『物語 』よりなにより、
服部春彦 『文化財の併合:フランス革命とナポレオン』 (知泉書館、2015年6月)
です。1934年生まれ(81歳!)の服部さんの、これまでとうって変わって、文化政治史のお仕事。「普遍主義ミュージアム」の立場からする略奪・押収・併合と、その後の祖国への返還を分析したモノグラフです。「研究史の概観と課題の設定」から始まって、書き下ろし、xii+481ページ。第Ⅱ部は「フランスにおける収奪美術品の利用」、その第4章は「フランス革命とルーヴル美術館の創設」です。18世紀の絵画カタログを多用なさっているようですが、これらの「ほとんどは現在インターネットで閲覧可能」と。服部先生は IT を活用なさっていたのですね。興奮します。
天上の河野健二、柴田三千雄、二宮宏之、遅塚忠躬としては、これを見て脱帽するしかないのではないでしょうか。地上の現役研究者諸兄も、ね。
服部春彦 『文化財の併合:フランス革命とナポレオン』 (知泉書館、2015年6月)
です。1934年生まれ(81歳!)の服部さんの、これまでとうって変わって、文化政治史のお仕事。「普遍主義ミュージアム」の立場からする略奪・押収・併合と、その後の祖国への返還を分析したモノグラフです。「研究史の概観と課題の設定」から始まって、書き下ろし、xii+481ページ。第Ⅱ部は「フランスにおける収奪美術品の利用」、その第4章は「フランス革命とルーヴル美術館の創設」です。18世紀の絵画カタログを多用なさっているようですが、これらの「ほとんどは現在インターネットで閲覧可能」と。服部先生は IT を活用なさっていたのですね。興奮します。
天上の河野健二、柴田三千雄、二宮宏之、遅塚忠躬としては、これを見て脱帽するしかないのではないでしょうか。地上の現役研究者諸兄も、ね。
2015年7月10日金曜日
『物語 イギリスの歴史』
このところ AJC 2012 の会議録 History in British History の出版のために、何人かの助力をえて、火事場の踏ん張りのような日夜を過ごしました。この本は、8月の日英歴史家会議@大阪より前にご覧に入れることができます。
というわけで、近刊のみなさんの本については注意の行き届かないこともあり、君塚直隆『物語 イギリスの歴史』上・下(中公新書、2015年5月)は今ごろようやく拝見しました。上下2巻ともに巻頭の地図は、「近藤和彦編『イギリス史研究入門』(山川出版社、2010年)を基に著者作成」とあります。むしろ『イギリス史10講』(岩波新書、2013年)を基に作成、とか記された方が正直か、と思いました。その他、日本語の出版も多用されているのは率直なのか、先行業績への敬意なのか。どちらにしても悪いことではありません。
でも、著者にはあまり研究史の展開/転回をアピールしようという気はなさそうです。ブリテン諸島の政治社会の複合性とアイデンティティについてなにか論じるとか、ヨーロッパ人や大西洋人やアジア人と混交した社会と歴史を呈示するとかいうことなしに、王様・女王様と政治家(politicians)の逸話をたくさん連ねただけの old-fashioned story なのでしょうか? 「帝国」という語もかなり安直に使用されていませんか? こういうことを続けていると、「だからイギリス史はつまらない」と、とりわけヨーロッパ史や中国史の先生方に揶揄されてしまうのです。昔からのパターンでした。逸話をたくさん連ねるのは良い。それによって読者の文明を見る目が修正され、歴史認識が広がり深まるなら。でも、ただトリビアが蓄積されるだけなら、退屈ですね。
「主要参考映画一覧」というのがあって、『冬のライオン』『ブレイブハート』から『英国王のスピーチ』『日の名残り』まで挙がっているのには、吹き出してしまった。『10講』の副読本だったのかと。ご免。でも『日の名残り』の英語原題名は間違っていますよ(下、p.241)、中公の校正さん! I remind you! ついでに「執事たち」という複数形も butler(使用人頭)は一人なのだから、可笑しい。
この『物語』上下は、著者の歴史観も出版社の志もよくわからない出版です。「きみの志はなんですか」と天上から尋ねる声が聞こえてきそう。
そういう事情もあって、おわりに(p.237)に「この辺で少しだけ単著は休ませていただき、‥‥と念じている」と記されているのでしょうか? そうだとしたらここは静かに、刮目して、君塚さんの次を見守りたいと思います。
というわけで、近刊のみなさんの本については注意の行き届かないこともあり、君塚直隆『物語 イギリスの歴史』上・下(中公新書、2015年5月)は今ごろようやく拝見しました。上下2巻ともに巻頭の地図は、「近藤和彦編『イギリス史研究入門』(山川出版社、2010年)を基に著者作成」とあります。むしろ『イギリス史10講』(岩波新書、2013年)を基に作成、とか記された方が正直か、と思いました。その他、日本語の出版も多用されているのは率直なのか、先行業績への敬意なのか。どちらにしても悪いことではありません。
でも、著者にはあまり研究史の展開/転回をアピールしようという気はなさそうです。ブリテン諸島の政治社会の複合性とアイデンティティについてなにか論じるとか、ヨーロッパ人や大西洋人やアジア人と混交した社会と歴史を呈示するとかいうことなしに、王様・女王様と政治家(politicians)の逸話をたくさん連ねただけの old-fashioned story なのでしょうか? 「帝国」という語もかなり安直に使用されていませんか? こういうことを続けていると、「だからイギリス史はつまらない」と、とりわけヨーロッパ史や中国史の先生方に揶揄されてしまうのです。昔からのパターンでした。逸話をたくさん連ねるのは良い。それによって読者の文明を見る目が修正され、歴史認識が広がり深まるなら。でも、ただトリビアが蓄積されるだけなら、退屈ですね。
「主要参考映画一覧」というのがあって、『冬のライオン』『ブレイブハート』から『英国王のスピーチ』『日の名残り』まで挙がっているのには、吹き出してしまった。『10講』の副読本だったのかと。ご免。でも『日の名残り』の英語原題名は間違っていますよ(下、p.241)、中公の校正さん! I remind you! ついでに「執事たち」という複数形も butler(使用人頭)は一人なのだから、可笑しい。
この『物語』上下は、著者の歴史観も出版社の志もよくわからない出版です。「きみの志はなんですか」と天上から尋ねる声が聞こえてきそう。
そういう事情もあって、おわりに(p.237)に「この辺で少しだけ単著は休ませていただき、‥‥と念じている」と記されているのでしょうか? そうだとしたらここは静かに、刮目して、君塚さんの次を見守りたいと思います。