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2016年6月28日火曜日

@nifty掲示板

「@niftyレンタル掲示板」という名の掲示板 blog ですが、1999年末にHPを開設した当初から利用して参りました。今では「イギリス史 Q&A」に特化したサイトとして、細々と維持しています。 → http://kondo.board.coocan.jp/bbs/
ところがこのたび、@nifty側の都合で、今秋10月にてこれを閉鎖するとの通告を受けました。
 今こちらのサイト http://kondohistorian.blogspot.com/ が一方的発信を主目的としたブログである(メンバーおよび許可を受けた者のコメントが事後的に採用される)のと違って、あちらの coocan掲示板(bbs)は相互発信≒交流型で、それが2000年代半ばには楽しいフォーラムとして機能したと思います。最初のインストールからすでに16年、インタネット社会の定着局面における無料サーヴィス掲示板の使命は果たしたということでしょうか。
 ぼく自身は広告の介在、そしてスパムの処理を煩わしいと思っていましたから、その歴史を懐かしみつつも、coocan掲示板の消滅はしかたないかな、という気分です。
 閲覧の皆さま、ありがとうございました。

 こちら kondohistorian.blogspot.com については、変わりなく、よろしく!
 サイトへのアクセス数、特定投稿へのアクセス数などが分かるシステムになっていますが、最近では『礫岩のようなヨーロッパ』(山川出版社)のページへの閲覧が22日昼からほんの5日で700アクセスです! この書への、そしてヨーロッパ史への、礫岩EUへの、関心の広さを印象づけられました。出版社も、イギリスのEUレファレンダムが「幸か不幸か、絶妙のタイミングになってしまいました」との所感とともに精勤してくださっています。

2016年6月24日金曜日

イギリス人民の愚かな選択

 今日午後の「西洋史料講読」の授業中に、EUの地図を見せながら「EUレファレンダムはつばぜり合いで、結果は予断を許さない」などと言っていたら、学生がスマホを見ながら「いまBBCで、離脱派勝利と出ました」! そんなことがあってよいのか。
驚きと困惑と憤りに近いものが、込み上げてきました。イギリスの良識が敗北したのです。
つづく「大学院演習」ではすこし落ち着いて感想を述べたあと、早々に退室して、BBCおよび新聞から情報収集し、考察しました。
ところで、大前提として、日本のマスコミは Great Britain を「大英帝国」と訳すので、問題を混線させます。過去の帝国も現今の英連邦も関係ない。ただ海峡の向こうの「ブリタニア大島」をさす地理的な用語です。
むしろ問題は、過去・現在・将来のイギリスを考えるにあたって「ヨーロッパ=コネクション」を重視するのか、「大西洋コネクション」にすがるのか。歴史家がずうっと議論してきた論点、イギリス人自身のアイデンティティ、そして国家戦略にかかわるイシューが、ここではっきりと問われたわけです【『イギリス史10講』(岩波新書)p. 9】。そして保守党、労働党、自由民主党、スコットランド党などなど、コモンセンスを備えた政党のキャンペーンにもかかわらず、短期的な感情(条件反射)に訴え、短いセンテンスで煽る右翼のキャンペーンが優ってしまった。これは民主主義の危機です。
レファレンダム=人民投票とは、はたして大衆社会において賢明な政治手法なのか、という根本問題にも思いいたります。

現在えられる情報から、こう言えます。今回のレファレンダムは、当然ながら一つの要因だけで決まったのではなく、
1) たとえばスコットランドおよび北アイルランドでは有権者が残留(Remain)を選んだのは、それぞれの地方の、年来の権限委譲(devolution)を求める動きからして自然な選択です。その系として、連合王国(UK)がヨーロッパ連合から離脱するなら、わたしたちはイギリスでなくヨーロッパ連合を選ぶ、という声で、十分に合理的。

2) イングランドの地方(provinces)が離脱≒独立を選んだ、ロンドンは残留を選んだ。あるいは老人は離脱派で、若者は残留派だ‥‥といった日本のマスコミの解説は表面的です。
それよりも明らかなのは、Financial Times にもあった投票分析で、かなり「不都合な事実」です。すなわち、学士(大卒)以上の人口比率の低い選挙区では「離脱」を選び、学士以上の比率の高い選挙区では「残留」を選んだ。同じロンドン地域でも学歴による差は歴然。(スコットランドについては学歴は有意の差を示さず、全般に残留を支持。)
http://www.scoopnest.com/user/FT/746224372432527360
EU vote → https://t.co/dYKO9PjIxd
EUのメンバーであってこそ現在のイギリスは存立する;イギリス国内の雇用も、EU内の雇用もお互い様で、広域の経済・文化があってこその繁栄だ;ワインが無関税で輸入され、思い立ったらフランス・イタリアに自由に旅行できるのもEUのお陰だ;ブリュセル官僚によってイギリスが不当に主権を侵害されているというのは右翼のフレームアップに過ぎない(じじつ、イギリスからEUに議員も役人も送っている)‥‥といった事実を認識しているのは、多くは学卒の人々にすぎなかった。右翼デマゴーグのキャンペーンは、考えない男女大衆をベースに拡がった、ということでしょう。これは憂うべき分裂であり、こうした two nations の分裂を放置してきた政治は、痛いしっぺ返しを受けたということではないでしょうか。
【アメリカ合衆国におけるトランプ現象のことを考えると、さらに暗澹たる気持になります。】

3) キャメロン首相は、みずから保守党内の権力基盤を固めるために(とくに喫緊というわけではなかった)EUレファレンダムを2年前に計画し、これに楽勝することによって長期政権を固めようと図っていたのだが、最近数ヶ月の不思議な政治力学によって、あれよあれよという間に、思惑とは反対の方に流れてしまった。政治の舵取りを誤ったわけだから、甘さと無責任を認めて辞職するほかありません。

4) 政治力学(politics)の次元とは別に、歴史的な国制(constitution:国の仕組み)という観点から考えると、せっかく中世以来の知恵として確立してきた代表議会制による審議をすっとばして(議会主権を棚上げして)、人民に可否の決定を任せた、しかもたった一日の人民主権に丸投げした。これでは歴史学的に言うと「(人民という名の)王の政治」です。
中世には賢人会、近世以降には議会や社団など中間団体によって「王の独裁」は牽制されチェックされてきました。「政治共同体と王の政治 dominium politicum et regale」という原理原則を、アングロサクソン以来の政治文化=「古来の国制」として、イギリス人は後生大事にしてきたのではなかったのか? 歴史の知恵を放棄して人民投票に賭けたという愚行の手痛いバツを、これからイギリス人民は、キャメロンを初めとするエリートたちと一緒に、長く負い続けるでしょう。【 cf.『礫岩のようなヨーロッパ』:25日に追記】

5) これによってイギリス・連合王国の国際的信任はガタ落ちです。右翼に世論の多数派をもってゆかれ、良識よりも条件反射的なソントクを優先し、リベラリズムよりも直近の雇用や手当てに惹かれる国民、というのでは尊敬されません。つまらん小人の国として、リーダーシップも、経験知も期待されなくなるでしょう。
Great Britain はすでに great ではなくなった、ということでしょうか。

6) 国際的な影響ははなはだしく、日本経済も深刻な影響を受けます。それ以上に、ヨーロッパ内で反EUの動きが勢いを帯びて、第二次大戦後に築きあげてきた連帯と信頼のきづなが(エコならぬ)エゴによって台無しにされる。こちらのほうが憂慮すべき問題と思われます。
考えたくないけれども、【合衆国の共和党政治のゆくえとともに】21世紀の世界史について、最悪のシナリオが始まるのを否定できません。

EU レファレンダム

いま木曜から金曜に替わったところですが、EU レファレンダムを、固唾をのんで注目しています。
(8月のロンドン宿泊の予約=ポンド払い=は、昨晩に済ませてしまいました!)
投票時間は現地、木曜の22時まで。ユーラシアの東と西で、日本より8時間遅れですから、まだまだ投票中。したがってテレビも新聞も中立的な事実しか報道していません。
先にも書いたとおりで、ぼくの立場は Remain です。
Leave という愚かな選択をしてしまった場合、キャメロン首相が辞任して「あらためて再投票」という策もあり? それって、前提条件が変わらないかぎり、「一事不再議」という原則に反するのでは?

2016年6月22日水曜日

古谷・近藤 (編) 『礫岩のようなヨーロッパ』 (山川出版社)


お待たせしています。6年間の共同研究の成果(途中経過報告)ですが、ようやく索引の校正を終えて、責了です。
目次は、こうなっています(簡略表記)。

序章 礫岩のような近世ヨーロッパの秩序問題        近藤 和彦

第Ⅰ部 政治共同体と王の統治
1章 複合国家・代表議会・アメリカ革命 H. G. Koenigsberger(後藤はる美訳)
2章 複合君主政のヨーロッパ      J. H. Elliott(内村俊太訳)
3章 礫岩のような国家        Harald Gustafsson(古谷大輔訳)

第Ⅱ部 礫岩のような近世国家
4章 ハプスブルク君主政の礫岩のような編成と集塊の理論 中澤達哉
5章 バルト海帝国の集塊と地域の変容           古谷大輔
6章 ヨーロッパのなかの礫岩              後藤はる美
7章 複合国家のメインテナンス             小山 哲
8章 スペイン継承戦争にみる複合君主政         中本 香

序章につづき、翻訳3本、論文5本の力作揃い。
吉岡・成瀬(編)『近代国家形成の諸問題』(木鐸社、1979)以来の研究史的なパラダイムの、今日的な刷新であり、また最近の岡本(編)『宗主権の世界史』(名古屋大学出版会、2014)や池田・草野(編)『国制史は躍動する』(刀水書房、2015)の向こうを張る出版です。これでお終いではなく、これからも続く共同研究です。
11ページ・2段組の索引を( → で示した参照項目も)しっかり利用して、ご精読ください。7月中旬に、山川出版社から本体定価3800円にて刊行予定です。

Trump 現象

憂慮しています。
悩める共和党の「切り札」「ラッパ」としてのトランプ。結局は、合衆国における無責任なマスコミの視聴率争いの(意図せざる)結果です。かのヒトラーも、合法的な選挙に勝利して政権を執りました。ただしヒトラー首相は核弾頭の発射ボタンをまだ持っていなかった。ナチス期よりもはるかに危険な今の時代に、こういった人格破綻者が「民主的な手順」をふんで≒ケンカのルールを遵守して、米大統領=軍最高司令官(imperator)になるなんて、これは人類文明史(がつづくなら、それ)に残る大事件です。

虚栄心がまさり、攻撃的で目立ちたがり屋というくらいなら、他国の権力者としての前例もあり、現職の例もあります。しかし彼らは政治を知っている練達の権力者で、しかも一人っきりではない。専門家チームを組んでいます。
ところがトランプは、有能な専門職能チームをもっているのか。イスラームにも女性にも国際政治にも、無知で不用意な発言を、インパクトのある短いセンテンスで繰りかえし、それを無知な大衆有権者が喜び、カタルシスを覚えるという構造。

アメリカという大衆社会における知的中間層の失権、たとえばジェフ・ブッシュ程度の常識的保守政治家さえ大統領選に生き残れない政治文化とは!
すでに19世紀からトクヴィルが憂慮していた貴族なき=中間団体なきアメリカ合衆国は、カネとハッタリに左右される阿呆の国なのか? 驚くばかりです。合衆国内に優秀な頭脳は何百万もいて、数的に日本より多いことは明らかなのだが‥‥、その社会構造/政治社会の秩序の問題ですね。
ぼくは、相対的な選択として Hillary Clinton 支持です。

EU, in or out?

イギリスが EUメンバーに留まるか、離脱するか。
歴史家として、これは自明の問いだったので、あまり本気で意見を言ってきませんでしたが、連合王国内で、ここまで離脱派の勢いが高まり、そして残留派の国会議員を殺傷する事件まで生じると、危機感をもちます。

日本のマスコミは、経済的効果、ブリュッセル・エリートへの反感、といったことに関心を集中させていますが(それだけ考えが浅い)、それらに加えて、人びとのアイデンティティをめぐる感情の問題も大きい。「政治国民」political nation とは歴史的に(19世紀半ばくらいまで)地域エリート以上のことでしたが、現代では一般有権者大衆です。

ところで第1に、そもそも referendum を「国民投票」と訳してよいのでしょうか。特定問題についての選択肢を明示した上での直接投票のことを中学社会で「レファレンダム」とならい、高校世界史や公民では「人民投票」plebiscite とならうのではないでしょうか? 2014年のスコットランド独立を問うレファレンダムは「住民投票」と訳して、今回は国民投票と訳して、マスコミ関係者は良心の呵責といわないまでも、小さな疑問くらいは感じないのですか?
第2に、人はソントクだけで判断し、動くわけではありません。いまの日本列島でいえば沖縄の人たちが感じている「憤り」とスコットランド人が覚えた感情は似ているでしょう。
今回のレファレンダムにあたって離脱派は、生活上の疑問・不満をあおって「憤怒」にまで高めようとしている。その明日は、内向きで分裂したイギリス(連合王国)です。ものつくりやサーヴィスよりも金もうけに執心する人びと。人類史・文明の来し方行く末を考えることより、直接的で感性的な小宇宙での充実がまさっているようです。

連合王国の新聞の論調ですが、その全国5大紙はちょうど日本の全国5大紙と類似しています。
     The Times読売新聞   Leave(保守本流), NATO堅持
   The Guardian* ~ 朝日新聞   Remain=「投票に行く、残留する」
The Financial Times日本経済新聞   Remain=世界資本主義の立場
  The Independent毎日新聞   唯一不明(?), 中立主義
The Daily Telegraph産経新聞   Leave(右翼)

* その日曜紙は The Observer で international, liberal and open Britainを主唱。
 この点は、たとえば1997年の「ゼノフォビアよ、さよなら」から一貫します。 cf.『文明の表象 英国』pp.218-9.

なぜか今のアメリカ合衆国の反知性主義キャンペーンに似てきたとすると、憂慮すべきことです。主権回復といった奇麗事、経済社会の問題を移民に絞りあげて人心を煽るのは、右翼の常套手段です。イギリスの有権者は不幸なコックス議員の殺害事件を機会に、落ち着いて知性を働かせるべきでしょう。もしブリュッセル官僚に問題があるなら、ヨーロッパ議会選挙にしっかり取り組むべきです。EUにおいても、立法が行政より上に立っているのだから。

というわけで、ぼくは民主主義、知性主義、ヨーロッパ文明、複合社会、そして反民族主義の立場から、EU堅持のうえでの改革派です。
Splendid Isolation とはパクス=ブリタニカの時代の自由主義外交の結果でしかない。イギリス人は「礫岩のようなヨーロッパ」のなかの一員であり、隣人と仲良くしないわけにゆきません。
イギリス(連合王国)がEUから抜けるなら、当然のように他の国々も続いて抜けようとするでしょうし、また連合王国からはスコットランド、ウェールズ、北アイルランドの独立運動が勢いづくでしょう。地域ナショナリズムの時代が賢明な時代とは、ぼくには思えません。The wise vote is for remain. ガーディアン紙も述べています。

2016年6月17日金曜日

Ichiro Suzuki

 イチロー(鈴木一朗)の大記録達成、おめでとう。

「天才が努力を重ねると恐ろしいことになる」とは、野村克也の評らしいのですが、納得。しかも、B型というのだから、なおさらうれしい。
 なにより、苦しいとき、世間から冷笑されるときにこそ、コンスタントな努力によって難関を克服してきたという事実、考える野球選手ということが、尊敬に値します。
当然ながら、用具を大切にあつかい、情緒が安定している人なのですね。

 このところ色々と課題山積で(多方面からの注視も意識せざるをえず)ブログ発言が減っていますが、理由のある reticence ですので、ご心配なく。