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2019年10月31日木曜日

首里城 炎上


今朝、寝ぼけ眼でスマホをみると首里城の炎上する写真。にわかに信じられず、TVをみましたが、法務大臣の交代だの、マラソン開催地の変更だの、ちょっと二次的なニュースが続きました。マスコミ側もにわかに対応できなかったのでしょうか。
今年2月に島内をめぐり、首里城については見学もしたし、外から美しい写真もいろいろと撮れて(戦中の陸軍の陣地跡もふくめて)、良い印象をもっていたものですから、本当ににわかに信じがたい惨事です。
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http://kondohistorian.blogspot.com/2019/02/blog-post_13.html

先のパリ・ノートルダム大聖堂の「再建」案についてと同じく、中世以後、いつの首里城を復元・再建するのかという問題も、歴史家たちが参加して真剣に議論してほしいと思います。日本列島の歴史の本質に触れる重要なモニュメントです。21世紀にのこすべき歴史遺産なのですから、防火・防災についてはもちろん。再建資金については、ノートルダムに負けないくらいの民間寄付を集めても良いのではないか。

2019年10月25日金曜日

ノートルダム大聖堂 と 時代


 10月19日(土)にはパリ・ノートルダム大聖堂の炎上 → 再建・修復をめぐってのシンポジウムが上智大学であり(司会・問題提起は坂野さん)、問題は単純ではないということが具体的に示されて有意義でした。http://suth.jp/event/20191019/ 「つくられた伝統」という観点からも。ただし、多くの報告者が建築の歴史を語るときに、フランス王国ないし共和国の枠組が自明のように前提されて、「美(うま)し国」のなかで歴史も文明も完結するかのごとく、縦の系譜がたどられて、ちょっと待ってくださいという気にもさせられました。
 その点で、最後の松嶌さんの報告は、ケルンやシュトラースブルク、さらにはコヴェントリにも議論を拡げていました。「ゴシック様式」の起源がイル=ド=フランスだったらしいというのはいいとして、建築様式をはじめとする技能は(そもそも中世には薄弱な)国境を越えて遍歴する職人集団によって伝えられたし、そうでなくともアイデアやノウハウは真似られ、流行し、継承され、いずれ改変される。近現代においても技術やアートは、たやすくネーションや国境を越えて伝播しますよね。
 また都市史の観点からも考えさせられる指摘があり、大聖堂とその周囲の街並みとの交わりについて、中島さんの図版に、18世紀前半までパリ・ノートルダム大聖堂のすぐ近くまで町家が建て込んでいたことが示されました。その後のクリアランスはパリやフランス諸都市に限らず、およそ啓蒙ヨーロッパに共通の改良(improvement)運動として展開するのが、おもしろい。イギリスでは18世紀が(道路や広場の)改良委員会の時代です。ロンドンの聖ポール大聖堂も、ケインブリッジのキングズ学寮チャペルも、周囲に(今あるような)公共空間ができるのは18世紀です。有名どころとしては、キャンタベリの大聖堂が「街並み改良」としては立ち遅れて、その結果、今日にいたっても建て込んで、ちょっと離れた位置から大聖堂全体の美しい写真を撮ることができませんね。観光絵ハガキでは、したがって、航空写真を使うのがふつうです!
 18世紀が啓蒙だけでなく、新古典主義とバロック・ロココ、あるいは加藤さんの論じられた「良き趣味」の拡がりという点からも、画期なのだ;ドイツでコゼレクたちの論じてきた Sattelzeit がここにも認められる、と思いました。このシンポジウムでは、ヴィクトル・ユゴーやル=デュクの中世趣味的な「修復」の観点を強調することによって、19世紀の中世=ロマン主義の時代性、それに先行した the age of enlightenment の普遍性みたいなことが浮き彫りにされたのかもしれません。

 音楽演奏では、ブリュッヘンたちの Orchestra of the eighteenth century,
専従指揮者のいない Orchestra of the age of enlightenment,
そして J E ガードナ(Gardiner)の Orchestre révolutionnaire et romantique
が競合し共存した時代をへて、今はまたすこし変貌しているかに見えますが。

2019年10月22日火曜日

芋づる式!?


 拙著『イギリス史10講』は今月初めに第12刷を出していただきました。
2013年12月に初版1刷でしたので、6年間にこれだけ増刷というのは有り難いことです。じつはそのたびに、気付いた範囲で、また該当ぺージ内での添削にとどめますが、ちょこちょこと改良・修文をしています。ですから、扉裏の年表に初版にはなかった「2017  EUからの離脱交渉始まる」といった記述がある、といったちょっとした改変があります。

 そういった著者の提案による加筆とはまた別に、今回あたらしく付いた帯に
つながる ひろがる、(芋づる式!)岩波新書
とあって、裏側にはなんと、
  金澤 周作『チャリティとイギリス近代』(京都大学学術出版会)
  小川 道大『帝国後のインド』(名古屋大学出版会)
  木畑 洋一『帝国航路を往く』(岩波書店)
  清水 知子『文化と暴力』(月曜社)
という4冊が挙がっています。
帯の折り返しに「芋づる式!読書MAPhttps://iwanami.co.jp/news/n31558.html
とあり、こちらをみると、さらに『図説 英国ティーカップの歴史』(河出書房新社)
も加わり、よくわからないネットワークが絡み合ったMAPが現出します。
https://twitter.com/maktan0308/status/1184790143850336256

岩波新書が岩波の他の本だけでなく、他社の出版物とつながっているのが良いですね。知らなかった本もたくさん。しかも大きなMAPの右下には、
  丸山真男『日本の思想』、内田義彦『社会認識の歩み』、安丸良夫『神々の明治維新』
といった本もあって、こうした名著と
「つながる ひろがる」岩波新書フェア
だそうで、ちょっと面はゆい。

2019年10月15日火曜日

都市史学会大会@青山学院大学

2019年度都市史学会大会のお知らせ

  日時 2019年12月14日(土)、15日(日)
  会場 青山学院大学青山キャンパス14号館12階(もより:渋谷・表参道)
     https://www.aoyama.ac.jp/outline/campus/aoyama.html

◆12月14日(土)
13:00~15:00  研究発表会  司会 小島見和
15:15~16:15  総会(会員のみ)
16:30~18:00  公開基調講演 桜井万里子「ポリスとは何か」
   紹介・司会 樺山紘一
18:30~21:00  懇親会 アイビーホール・フィリア 参加費6000円 学生5000円

◆12月15日(日)
「歴史のなかの現代都市」
  http://suth.jp/event/convention2019/
10:00~10:15  趣旨説明 伊藤毅(建築史)
10:15~11:00  北村優季(日本古代史)
11:10~11:55  河原温(西洋中世史)
12:00~13:00  昼食
13:00~13:45  桜井英治(日本中世史)
13:55~14:40  中野隆生(西洋近現代史)
14:40~15:00  休憩
15:00~15:45  妹尾達彦(東洋史)
15:45~16:00  池田嘉郎(近現代ロシア史)
16:00~16:15  北河大次郎(土木史)
16:30~17:30  討論

2019年10月10日木曜日

天皇像の歴史 シンポジウム

恒例の史学会大会@東京大学文学部ですが、今年は、公開シンポジウム「天皇像の歴史を考える」があります。

史学会大会・公開シンポジウム
日時: 11月9日(土)13:00~ (史学会賞授賞式のあと)

会場: 文京区本郷 東京大学・法文2号館1番大教室

公開シンポジウム 「天皇像の歴史を考える

<司会・趣旨説明>
  家永 遵嗣(学習院大学)・ 村 和明(東京大学)

<報 告>
  佐藤 雄基(立教大学)「鎌倉時代の天皇像と院政・武家」
  清水 光明(東京大学)「尊王思想と出版統制・編纂事業」
  遠藤 慶太(皇学館大学)「歴史叙述のなかの「継体」」

<コメント>
  近藤 和彦(東京大学名誉教授)

<討 論>

2019年10月8日火曜日

編集力の問題


 10月7日、『日経』文化欄にて、「誤記や捏造、揺らぐ出版」と題する、久しぶりに郷原記者の署名記事を読みました。
・池内紀『ヒトラーの時代』(中公新書、2019)
についてあまりに誤記、間違いが多い、という指摘に、研究者・小野寺さんのコメントが引用されています。じつは、こちらはそう珍しくない、多作な執筆者になくはない話かな、と思わせます。池内さんの翻訳文について、二昔ほど前にも話題になったことがありました。ゆったり温泉につかって書いているような随筆文なんでしょう。脇から舛添要一のコメントも加わったりして、やや混乱していますが、問題はやはり編集力ということではないでしょうか。

・深井智朗『ヴァイマールの聖なる政治的精神』(岩波書店、2012)
こちらはずっと深刻で、表向きは学術的な、学問を否定する作品でした。捏造、盗用、デッチ上げ。すでに本人は東洋英和女学院を懲戒解雇され、岩波書店も公に謝罪してこの本を回収しています。

 郷原記者は、こうしたことが続く原因を、現今の出版社の点数主義と、編集者の(忙しすぎるゆえの)手抜きとしています。そのとおりですが、もう一つ、編集者の水準の低下、「ゆとり世代」の基礎学力不足も深刻なのではないでしょうか。専門書ならばレフェリー制度、というのが一つの解決策ですね。

・かくいうぼくも、じつは剽窃まがい(無断の借用)の被害者です。加害者は多作で名の通った大学教授(and 創業100年をこえた出版社の担当編集者)で、もしや教授殿から、本文はできたから、「地図等はテキトーにやっといて」と任されたのでしょうか。若い編集者が、それこそテキトーに手にした、近藤和彦編『イギリス史研究入門』(山川出版社、2010)p.394 の地図を無断で拝借したのでした(対照してみると、ぼくが選択した地名だけでなく、文字の配置・傾斜も、イタリックもすべて一致。海の波線は異なります!)。完璧なコピー&ペイストです。参考文献表のある本でしたが、近藤の名も『イギリス史研究入門』という表記も、巻頭から巻末まで、どこにも見当たりませんでした。
 その著者先生の人柄は前から存じていましたので、ご本人と交渉してもノレンに腕押し(!)でしょうから、出版社の編集部に釈明を求めました。
 直ちに、担当編集者とその上司から平身低頭の対応がありました。担当編集者(20代?)のセリフによると「地図なんてどれも同じ」、コピーライトがあるなんて知らなかったというのです。この老舗出版社の名声を揺るがすような発言でした。
 おそらく事態をはじめて認識した上司が奮闘したに違いありません。次の第2刷から(微妙にニュアンスをつけて)「近藤和彦著『イギリス史10講』による」という1行が地図の下に加わりました。執筆者ご本人はというと、ある時、ある所で遭遇したら、‥‥頭を下げずに「お騒がせしました」とのご挨拶でした!