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2019年12月12日木曜日
木曜日は投票日
今日12月12日はイギリス(連合王国)総選挙の日。なんとも憂鬱な気持です。
→ https://www.bbc.com/news/uk-politics-49826655
というのは、ぼくがもし有権者だったら、どう投票するか。ヨーロッパ連合(EU)に踏みとどまって、経済も文化も人的交流も、したがってイギリスの誇る高等教育を維持するには、第1に、ジョンソン保守党政権を打倒することが大前提。
では野党第一党の労働党に投票するか、といえば、これがただの旧左翼に過ぎない。内政のこと以外頭にないコービン労働党が、EU堅持という政策を押し出すことができないのは、80年代までの「資本家ヨーロッパ」に反対した左派(ベン、フット‥‥)と同じです。フット党首の下でともに働くことを拒否して「4人組」(Roy Jenkins, Shirley Williams, David Owen, William Rodgers)が離党し、社会民主党(SD)を立ち上げたのは、ぼくの留学中のことでした。国民的観点よりも階級的利害を優先する党であるかぎり、政権を担い続けることはできない。80年代のサッチャ政権を長らえさせ、また現在の(2010年以来の)保守党政権を長らえさせているのは、野党第一党「労働者階級党」の愚劣さの「成果」です。
12日の投票日に、多くの賢明な有権者は迷うほかない。ジョンソンには反対票を投じるのは自明として、しかし愚劣な現労働党には投票できない。で、第三党、EU堅持の自由民主党(LD)に一定の票が集まるでしょう。
しかし、イギリスは小選挙区制で、得票第1位の候補者のみが当選する! 一定の労働者票はあいかわらず労働党に行くので、ジョンソン政権批判票は分裂し、結局(50%に達しなくても)得票1位は保守党、という選挙区が一杯で、全国集計では保守党の単独圧勝、という結果がほぼ見えているのです!
ただしこれはイングランドについて。「保守党」とは正規には Conservative & Unionist Party で、すなわちピール以来の(革命を避けるために改良を重ねる、近代的な)Conservative と、連合王国の Union を死守する=反権限委譲の二つを党是とする政党ですから、現今のように地域利害が正面に出た政治が続くと、イングランド以外では支持を保つことができない。スコットランドでは国民政党SNPが、ウェールズではやはり国民政党 Cymru が多数を占めるでしょう。北アイルランドは元々地域政党の地盤です。
というわけで、総選挙後のイギリス政治は、中長期にはスコットランド、ウェールズ、北アイルランドがEUに留まることを希求して、連合王国から離反する、すなわち United Kingdom の解体に向かってゆきます。資産も人材も流出し、世界大学ランキングのトップテンから、オクスフォード大学、ケインブリッジ大学、ロンドン大学(Imperial College)の名が消えるでしょう。イギリスがイギリスであったのは、スコットランド人、ウェールズ人とアイルランド人の知性・感性・エネルギー・信仰心と偉大な自然があったからでしょう。小さな、狭量な老イングランドが、単独で往時の威信と平和を取り戻せると夢想するのは愚かというものです。
ぼくたちの知っている「イギリス」「英吉利」「英国」は、2019年の総選挙とともに、過去のものとなるのでしょうか。それもこれも、2016年のレファレンダムにいたる・そしてそれ以後も拡大再生産されてきた politician たちの無責任な(野心まる出しの)言説、キャンペーンの結果です。公人、エリートたちは「分断」をあおるような発言を繰りかえしてはならない、という教訓を今さらのように(苦い思いとともに)再確認します。
トニー・ベンもマイケル・フットも本当に懐かしい名前です。1981年か82年、一度父に連れられて、労働党本部に行ったことがあります。お土産コーナーに、フットの戯画のポスターがありました。トニー・ベンは、父が強い関心をもっていて、彼の日記(厚いのが何巻もある)を買っていて、これは棚をふさぐのですけれども、私としても手放しようがありません。ずっとあとで、1999年3月、ユーゴ空爆のときに、モスクワでニュースを見ていたとき、ロシアは反空爆の立場から、いかにも世界各地でNATOの非道に抗議の声が高まっているといった情景ばかり映すのですけれど、イギリスではトニー・ベンが抗議していると出てきて、「ああ、まだトニー・ベンは頑張っていたのか・・・!」と、感慨無量でした。
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