2009年12月23日水曜日

こんな本



 東大出版会のつけた副題は〈日本語のアカデミック・ライティング〉。
 『留学生と日本人学生のための レポート・論文表現ハンドブック』という主題では、ちょっと縁がないかな、と思いながら手にしました。まず目に飛びこんでくるのは、あらゆる漢字にふられた総ルビ。キー表現には英語が添えてあって、これと、ちょっと見にはミスマッチではないかと思われた。‥‥
 しかし、この200ページ余のハンドブックの半ばから後半には、驚きとサプライズが埋め込まれていて、ビックリ!(といった tautology はいけません)目が覚めました。

 では、と落ち着いて、留学生ならぬ、日本の高校を出て大学に入学したフツーの学生、そして彼らに毎週接しているフツーの教員たちは、この本をどう利用するだろうか、という観点で見なおしました。
 第Ⅰ部は、大学に入りたての1年生向けレポートの手法案内。
→ 知的な高校2年生の「主題学習」にも応用できるかもしれない。とはいえ、東大の3年生で、ここに記されている基本さえ分かっていない者もいるんです。

 第Ⅱ部は「レポート・論文の表現」というタイトルで、日本語教育の観点から、かなり具体的に示すテクニカルな文体指導。例文もたっぷり。
→ これって、しかし、大学の『紀要』の執筆要項としても有益です。つまり、大学の先生がたの日本語も、じつはこの水準で、問題なのかもしれない。FD のテキストにしては、いかが?

 第Ⅲ部「レポート・論文の接続表現」は、その効果の重要性ゆえに、第Ⅱ部から分離独立したかと思わせる。
 とくに、並列、選択、焦点化、累加、換言、例示、補足、反対陳述、対比、結果提示、帰結、解説、 etc. にわけて「語句や文の論理的な関係を明確に示す」ためのスタイルを、たくさんの実例とともにデモンストレーション。
→ 英語の Connective expressions, if appropriately used, ... という条件句が生きています。
 日本語でできた文章が複雑だったり、dull だったり、混濁しそうな場合は、英語でどう言うか、と再考すると、good idea が浮かぶこともある(ない場合は、‥‥諦めるかな)。
 自分の文体について、常にここまで意識して構築していたわけではないので、反省しきり。

 本体価格2,500円。

 結論。本書のタイトルは「留学生と日本人学生のための」という部分は不要で、単純に『レポート・論文表現ハンドブック』とするか、あるいは、いっそ『日本語アカデミック・ライティング』というのがいいかもしれない。
 学生も、教員も、とくにⅡ部、Ⅲ部を読んで、みずからの文章を自己点検しましょう。

 欧語文献の表示法、註の付けかた、についてもっと詳しければ、文句なしに西洋史の院生にも薦めます。しかし、学問分野によって文献の表示法、註の付けかたはさまざま多様なのだから、「分野の違いに関係なくそれぞれの目的に合わせて利用」することをうたっているこの本では、それは望蜀というものでしょう。
(歴史学でも、古代史と近代史、また英・独・仏・米で違うのはまだしも、Oxford 方式と Cambridge 方式でも異なるんだから、困ってしまう! 今やっている『イギリス史研究入門』でも、じつはこうしたことで難儀しています。)

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