このところ AJC 2012 の会議録 History in British History の出版のために、何人かの助力をえて、火事場の踏ん張りのような日夜を過ごしました。この本は、8月の日英歴史家会議@大阪より前にご覧に入れることができます。
というわけで、近刊のみなさんの本については注意の行き届かないこともあり、君塚直隆『物語 イギリスの歴史』上・下(中公新書、2015年5月)は今ごろようやく拝見しました。上下2巻ともに巻頭の地図は、「近藤和彦編『イギリス史研究入門』(山川出版社、2010年)を基に著者作成」とあります。むしろ『イギリス史10講』(岩波新書、2013年)を基に作成、とか記された方が正直か、と思いました。その他、日本語の出版も多用されているのは率直なのか、先行業績への敬意なのか。どちらにしても悪いことではありません。
でも、著者にはあまり研究史の展開/転回をアピールしようという気はなさそうです。ブリテン諸島の政治社会の複合性とアイデンティティについてなにか論じるとか、ヨーロッパ人や大西洋人やアジア人と混交した社会と歴史を呈示するとかいうことなしに、王様・女王様と政治家(politicians)の逸話をたくさん連ねただけの old-fashioned story なのでしょうか? 「帝国」という語もかなり安直に使用されていませんか? こういうことを続けていると、「だからイギリス史はつまらない」と、とりわけヨーロッパ史や中国史の先生方に揶揄されてしまうのです。昔からのパターンでした。逸話をたくさん連ねるのは良い。それによって読者の文明を見る目が修正され、歴史認識が広がり深まるなら。でも、ただトリビアが蓄積されるだけなら、退屈ですね。
「主要参考映画一覧」というのがあって、『冬のライオン』『ブレイブハート』から『英国王のスピーチ』『日の名残り』まで挙がっているのには、吹き出してしまった。『10講』の副読本だったのかと。ご免。でも『日の名残り』の英語原題名は間違っていますよ(下、p.241)、中公の校正さん! I remind you! ついでに「執事たち」という複数形も butler(使用人頭)は一人なのだから、可笑しい。
この『物語』上下は、著者の歴史観も出版社の志もよくわからない出版です。「きみの志はなんですか」と天上から尋ねる声が聞こえてきそう。
そういう事情もあって、おわりに(p.237)に「この辺で少しだけ単著は休ませていただき、‥‥と念じている」と記されているのでしょうか? そうだとしたらここは静かに、刮目して、君塚さんの次を見守りたいと思います。
登録:
コメントの投稿 (Atom)
0 件のコメント:
コメントを投稿