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2024年7月27日土曜日

暑い7月:中学生から知りたい パレスチナのこと

〈承前〉  暑い7月:『中学生から知りたい パレスチナのこと』の続きです。昨日書いたことだけですと、パレスチナのことを正しく知りましょう、というので終わってしまいそうですが、むしろこの本の強みは、アラブ・パレスチナ問題の専門家=岡さんと対話しつつ、ポーランド・ウクライナの小山さん、ドイツそして食の藤原さんが積極的に議論している点にあると思います。
 中東欧のことに少しでも触れるとユダヤ人問題に正面から向きあわないわけにゆかない、と承知していますが、2つの地図、①旧ロシア帝国と旧オーストリア・ハンガリー帝国の境 - バルト海と黒海にはさまれた幅広い帯の地域 - に広がるユダヤ人強制集住地域(Pale of Settlement, p.113)と、②東欧の流血地帯(Bloodland, p.116)との重なりを見せつけられると、厳しい。 ここには地図②のみコピーして載せます。
 著者3人の座談会で話されているとおり(pp.191-198)、ただの「民族の悲哀」ではなく、なぜかこのあたりには「突出した暴力を行使するシステム」が存在し、それを許容してしまう情況があった。【ちなみに the Pale とは原義の「柵の中」→「アイルランドにおけるイングランド人の支配地域」という用法はよく知られていますが、「ロシア帝国におけるユダヤ人強制集住地域」として固有名詞的に使用されていたとは!】
 シオニズムについても、イスラエルに違和感をもつユダヤ人たちについても、中途半端な認識しかないぼくにとって、この本のあらゆるぺージが目の覚める発言に溢れています。
 本体1800円。「中学生から」後期高齢者までに向けた本です。3著者とミシマ社の速やかな協力による、すばらしい本です。ぼくもL・B・ネイミア(ルートヴィク・ベルンシュタイン)をはじめとする中東欧人の生涯と20世紀シオニズムとの、単純でない関わりを知るにつれ、しっかり理解したいと思っていたテーマでした。
 なお書名の前半『中学生から知りたい』については、前回ちょっと違和感を洩らしました。 → https://kondohistorian.blogspot.com/2022/06/blog-post_11.html  今回、あとがき(p.209)に小山さんが「中学生から」とは「‥‥日本語の本を読むための基礎的な教育を受けたことのあるすべての人」という意味だろうと「定義」しておられ、そういうことなら、違和感なし、とここに訂正します。

§ ところで、こうした問題は、『歴史学の縁取り方』(東大出版会、2020)でも - とくに小野塚さんあたりが - 明示的に問うておられました。また2022年、京大の西洋史読書会シンポジウム(Zoom)でも、重要なテーマになりました。 → https://kondohistorian.blogspot.com/2022/11/ 共通して、学者研究者にとって(その卵にとっても)根本的な問題が、より緊急性を帯びたイシューについて議論され、実行された出版の好例と受けとめました。
 なお本のカバーデザインについても一言。明るい緑色のバックに、地球儀とともにパレスチナのオレンジが示されて、本文中の藤原さんの言(p.173の前後)に対応しています。むかし学校で習った「肥沃な三日月地帯」がイスラエルによる水資源の独占により、パレスチナでは柑橘栽培が抑制され、外国からの輸入・援助によらねば日常の食糧が確保できない現状 → 強制された飢餓状態、に思いを馳せることを読者に促しているのでしょうか。
 近年はスーパーでも普通に目にするようになったイスラエル産の柑橘、果物、ワイン‥‥。手を伸ばすのにいささか躊躇します。

2024年7月26日金曜日

暑い7月

 今月に入ってから、いろんなことがありました。
 イギリス総選挙と労働党の組閣;フランス国民議会選挙と政権の「オランピク休戦」!;合衆国ではトランプ狙撃に続き、これではトランプ圧勝に向かうかと見られた情況が、22日、バイデンの大統領選辞退、ハリス支持にともない、事態は急転直下 → 民主党の団結へと転じて「最悪」は防げるかもという希望が生じました。‥‥
 そうしたなか、2冊の本が到来して、背筋をのばされる思いです。
 順番に、まずは『中学生から知りたい パレスチナのこと』(ミシマ社、2024年7月)です。
 2022年6月に『中学生から知りたい ウクライナのこと』で、時宜をえた出版を実現した、小山哲・藤原辰史のお二人とミシマ社のトリオについては、このブログでも触れました。 → https://kondohistorian.blogspot.com/2022/06/blog-post_11.html
これはすばらしい内容と迅速な公刊で、大歓迎でしたが、じつは特別に驚いたわけではなかった。100%の好感とともに、このお二人なら、こういうこともなさるかな、と自然に受けとめました。
 今回の『パレスチナのこと』については、まずは驚き、さらにこれこそ歴史的な学問をやっている人びとの責任のとり方だ、と姿勢を正しました。
 イスラエルの蛮行、ガザの惨状につき、日夜、憤りとともに心を痛める(さらに歴史的背景を自分なりに探る‥‥)までは - このブログを見る人なら - だれもがやっているかもしれませんが、「事態は複雑だ、解決はむずかしい」より先に一歩進めて、歴史と地理を考える/調べる、さらに二歩目の、自分がやってること/自分の世界史観の見直し・再展開につなげる、というまでは(手がかりがないと)なかなか難儀です。
 イスラエル国を批判することが「反ユダヤ主義」に直結するのではないかと懸念し、そもそもホロコーストと「英仏の帝国主義」に翻弄された被害者としてイスラエル人を免罪する/サポートするという傾向が、わたしたち生半可の知識をもつ者には少なくなかった。 → https://kondohistorian.blogspot.com/2024/01/blog-post.html
https://kondohistorian.blogspot.com/2024/01/blog-post_29.html
https://kondohistorian.blogspot.com/2024/01/blog-post_30.html
 そうした生半可の常識(学校教育で教えられ/カバーされてきた事実認識)をひっくり返す本です。現代アラブ・パレスチナの専門家=岡真理さんによって、「2000年前にユダヤ人(ユダヤ教徒)が追放されて世界に離散した」というのはフィクション(p.24);かつての南アフリカ共和国のようなアパルトヘイト国家=イスラエル国は -「ホロコースト」の犠牲者であるがゆえに - 何があっても - 免責される;「敬虔なユダヤ教徒はシオニズムを批判し、これに反対してきました」(p.49)といったぐあいに指摘され、目の覚める思いです。  〈つづく〉

2024年1月30日火曜日

イスラエル=パレスティナ問題(3)

ぼくが学生のころですが(1960年代後半~70年代はじめ)、イスラエルにはキブツ(kibbutz)というすばらしい農業集団(今でいう地産地消の共同体)があるというので、社会学の学生でそこへ行ってしまった者もいました。反資本主義・反スターリン主義のユートピアかもしれない、と「キブツ」(労働シオニズム)に身を投じたのです。カストロのキューバと同じようなイメージで語られていました。彼は今どうしているのでしょう。そもそもキブツの理念は、今どこに行ったのだろう。
南アフリカ共和国がイスラエル国家によるジェノサイドを指摘し糾弾し、国際司法裁判所(ICJ)に提訴をした件につき、『朝日新聞』1月26日の記事は、中学生のようにナイーヴでした。https://ml.asahi.com/p/000004c215/23431/body/pc.html
それと対照的に、28日(日)夜9時からのNHKスペシャル「衝突の根源に何が 記者が見たイスラエルとパレスチナ」は良かった。これは、さいわい2月1日(木)深夜0時35分に再放送だそうです。
https://www.nhk.jp/p/special/ts/2NY2QQLPM3/episode/te/GQZZMQ3VLW/
これに対応して、NHKのサイトに「複雑なパレスチナ問題 元特派員が詳しく解説」というぺージがあることも知りました。2023年10月11日付の鴨志田記者の「取材ノート」ですが、図版も豊富で、よく分かるように書いています(仮にA4で印刷すると約16ぺージ)。 https://www.nhk.or.jp/minplus/0121/topic015.html
記者のセンスと冷静な知性がおのずから表現された記事で、一読に値します。
‥‥なんて上から目線みたいなことを申しますが、鴨志田郷くんはじつは東大西洋史の学生でした(1993年卒)。彼は在学中に『史学雑誌』に短い文章も寄せていたのですよ!
【NHKの「元特派員が詳しく解説」という記事は「初心者」むけによくできていますが、唯一、問題ありとすれば、「イスラエル建国までの歴史」という年表が、2000年前までしか遡らないこと。「パレスチナの地には、ユダヤ教を信じるユダヤ人の王国がありました」という一文から始まっている点です。これではあたかも「ユダヤ人の国家」が大前提で、Amalek(好戦的な遊牧民、イスラエル人=神の選民の敵対者として旧約聖書に描写される)の存在には触れられることなく、その後2000年にわたる歴史的悲劇の民が、数々の難儀をへてようやく1948年に民族=信教国家(!?)イスラエルを建国した、といった語りに寄り添ってしまいます。
旧約聖書にあまた描かれているイスラエルの苦難の物語は、要するにこのあたり(エジプトからメソポタミアの間)にあった4000年、6000年にわたる多くの人びとの移動と戦いの歴史を、ユダヤ教徒の側から筋道をつけて語り伝えた作品 - ホウィグ史観!- なのですから、そのように相対化しておくべきでしょう。アマテラス(Amadeus!?)大御神の伝承で、日本列島の歴史を根拠づけるわけにゆかないのと同じです。付随的に、1948年建国時のイスラエルが多民族の国家だった、今もそうだ、という事実はしっかり報道したいですね!】

2024年1月29日月曜日

イスラエル=パレスティナ問題(2)

(元日、2日と大きな災害、大事件がつづき、圧倒されてしまいました。ガザへの報復(!)行為も凄惨をきわめ、理性的に思考を整えるのがむずかしく、日々がむなしく過ぎました。ただ、このところNHKのクロースアップ現代(桑子キャスター)、NHKスペシャル(鴨志田デスク)と力の入った報道がつづき、The Guardian の記事なども参照しつつ、とりあえず、次のように考えます。)
イスラエル国家の主張、その政治について批判したり疑問をもったりすると、即、反ユダヤ主義(anti-Semitism)であるとする言説、ユダヤ人を殲滅しようとしたナチスのホロコースト(ショア)と同罪であるとして許さない立場が、PC(politically correct)な世界で、ずっと勢いをもっていました。現イスラエル政権、それを中核で支えているユダヤ民族主義、それと伴走するキリスト教原理主義を批判しようとすると、公言をはばかる心理的抑制がはたらくのです。
今夕のNHK「クロースアップ現代」では、このことがイスラエル国民のトラウマ、教育と関連づけて議論されましたが、問題はより根深いと思います。アメリカ人も、日本の教養人も、英仏列強の偽善、イスラエル国家の正当性(正統性?)を前提に議論してきました。
現イスラエル政府を批判したり、さらには民族主義国家イスラエルの正当性に疑問を呈したりしたからといって、けっして反ユダヤ主義でもナチスと同罪なのでもありません。むしろ、リベラルで民主的な立場からの意見/疑念の表明として受けとめてほしいのです。
ほんの一瞬でも、「ナチスは良いこともした」とかいう含みはありません。ナチスは人類にたいする犯罪であり、それ以前からのポグロムも、反文明的なしわざでした。くりかえし糾弾すべきです。
ぼくが知っているユダヤ人のインテリは全員、知的でエネルギッシュで(ときにきわめて情熱的で)、個人として彼らに否定的な感情は抱いていません。しかし、現政府に対してはちがいます。イスラエル国のナタニヤフ首相は政権不安定の極にあったところ、10月7日のハマスの直接行動にしてやられ、にわかに挙国一致の反撃、ハマス根絶やし作戦を打ち出して、政権を維持しています。しかもそれをアメリカ合衆国がただちに支持しました。
ハマスはテロリストなのか? たとえば隣に軍事的に圧倒的な強者がいて「ジャイアン」のように横暴をきわめ、わが政治的存在を認めない場合には、どうしますか。
「弱者の武器」(James Scott のいう 'weapon of the weak')、サボタージュやゲリラ戦によって、その横暴に抗議する、ときに奇襲の反撃をする、といったことは歴史の場面で(常にではないが)ときどき行われてきました。たとえば産業革命中のラッダイト、幕末の攘夷志士、帝政ロシアのテロリスト、インドのガンディ、南アメリカのチェ・ゲバラ、ベトナム戦争における解放戦線、‥‥。
彼らが負けた場合は、歴史の進歩にさからう愚かな抵抗とみなされ、ガンディやベトナムのように勝った場合は、微妙に評価される。今回のハマスの場合も、負ければ、愚かで卑劣な/絶望的な集団とされたままでしょう。
イスラエル占領地へのユダヤ人植民たちが襲撃され人質として拉致された、というのは悲劇です。暴力は否認されねばならない。けれども、イスラエル政府のパレスティナ地区への植民政策/戦略じたいが国際法違反であり、パレスティナ人をガザに幽閉することもまた人道にもとる行為だとすると、- 前提が変わってきて - 安直な判断はできなくなります。
ましてや強者の奢りへの抗議をゲリラ的奇襲で表現したハマスにたいして、奢り/威信を保持するための報復ハマスを根絶するための戦闘に乗り出した現イスラエル政権にたいして、そのまま支持などできるはずもありません。

2024年1月1日月曜日

イスラエル問題

新年早々ですが、ちょっと微妙なことを書きます。
昨10月7日以来、悩ましく、発言を慎重にしていました。呑気に身辺のちょっとしたことをblogに書いているのも憚られるような、壮絶な事態が進行中です。もしやウクライナに攻めこんだロシアと同じくらい、いやそれ以上に、断乎たる、ナチスドイツに比肩するような、好戦的なことを遂行する国家があり、それをアメリカ合衆国が支援している。
この間のパレスティナ・イスラエル間の戦争のことです(英米では地理的に Gaza-Israel War という表記、あるいは当事者に注目して Hamas-Israel War という表記を採っています)。
病院や学校が襲撃の対象になったり、外からの支援物資の搬入が妨害され、停電で保育器の中の乳児がただ死ぬのを待つとかいった事態に驚き、悲憤していたら、さらにイスラエル軍はガザの、いやパレスティナ自治区の住民を殲滅してもかまわない、そうまでしてもイスラエル国家の存立を優先する姿勢です。何より問題はイスラエル国家の政治です。
西洋史、ヨーロッパ史に従事していると、学生時代からユダヤ人がいかに中世以来のキリスト教社会で差別、蔑視され、近代の国民主義によってさらに迫害されてきたか、そしてナチスドイツの徹底的なユダヤ人殲滅作戦についても、くりかえし知ることになります。そんな勉強をしていてもいなくても、『アンネの日記』やフランクルの『夜と霧』を読んでいてもいなくても、ショア=ホロコーストの記録映像や近年の映画類に接する機会は、少なくないでしょう。
イスラエルの政治について批判ないし非難すると、即、反ユダヤ主義(anti-Semitism)だとする言説が、PC(politically correct)な世界で、ずっと勢いをもってきました。 To be continued.