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2025年12月11日木曜日

新刊予告

雑誌『図書』12月号の一番最後のぺージにも予告が出ました。
「歴史とは何か」の人びと』、四六判、1月23日刊と予告されています。
本文と巻末(横組)の史料文献一覧も確定し、カバーおよび帯のデザインも決まりましたが、ただ今、索引につき最終的な、ホントに最後の奮闘中です。よく考えた索引がなければよい本は完成しない、という立場は柴田先生と共有しています。

2025年12月3日水曜日

すずらん通りの東京堂

ただいま新著『「歴史とは何か」の人びと - E・H・カーと20世紀知識人群像』のポリフォニー的列伝の最終局面。ほとんど昼夜反転しそうな日が/夜が続きます。
神田一ツ橋の岩波書店で今夕の仕事は済んだことにして、白山通りを渡り、ホッとした気持で歩くのは神田神保町の「すずらん通り」。
いろんな飲食の店、和菓子店、バーなどに間を彩られながら、専門古書店がならび、その先にこの通りにしては大きめのビルとして「東京堂」があります。
ここはぼくの学生時代(1960年代といえば、60年ほども前!)に三省堂の裏に、あの事典類を出してる「東京堂出版」ってこんなところに本社があるんだ、と認識したころ、本屋さんとしては冴えない部類だな(失礼!)という印象でした。
ところが、今や三省堂がなくなり、岩波信山社もなくなりました。近隣の環境変化と、おそらくは社の方針の転換も加わって、この近辺の新刊本屋としてレアなばかりでなく、じつは1階から3階まで、品ぞろいも悪くない、訪れて楽しい書店です。とくに3階は『思想』や『現代思想』のバックナンバー、全集の売れ残りなどを見て時間を潰す/啓発されるのには好ましい空間です。まだなじみのない方がたは、ぜひ!
今晩は、1階の目立つ書棚に『悪党たちのソ連帝国』『悪党たちの中華帝国』『悪党たちの大英帝国』が並んでいました。真面目な本かどうかを即断するには、が付いているかどうかだ、という説もあることは承知していますが、しっかり構えてプロデュースした本かどうかは、むしろ索引のありなしで即断できると、思っています。(いまぼくはそれで奮闘中です!)

2025年11月1日土曜日

はしがき

ご無沙汰は続き、ついに11月になってしまいましたが、理由は9月27日に書いたのと同じで、まだ拙著の校正ゲラと取組中です。経過のご報告として「はしがき」から一部を引用いたします。
 <Quote:>
 先にわたしはカーの『歴史とは何か 新版』(岩波書店、二〇二二)を訳出したが、その翻訳中に興味関心をひかれ、もっと知りたくなったのは、著者カーの頭はいったい何で一杯だったのか、彼が思いうかべてもの言わんとした相手はどういう人物なのか、ということであった。『歴史とは何か』でカーが俎上(そじょう)にのぼせた人びとは、二〇世紀を代表するような知識人たちだった。重要でありながら、なぜか正面から切り結ぶことなく、パスした人もある。そうした人びとの思想と人柄について、生活環境(ミリュー)に注目しながら、「列伝」のようなものを描いてみたいと考えた。カーは『歴史とは何か』の第二講で「良い伝記とは結局、悪い歴史である、などと言ってみたい気にもなります」(『何か』p. 72)と読者を笑わせてから、悪い歴史どころか、すばらしい歴史の例として友人ドイチャによる伝記の著作をあげていた。
 じつはイギリスは一九世紀に歴史学の最先進国ではなく、史料の保存・編纂についても研究教育についても、ドイツやフランスが先を行っていた。アクトンやアンウィンのようなドイツ留学経験者、そしてフランスで学んだ若手により、イギリスの学問は革新された。さらに二〇世紀前半、とくに一九三〇年代には中欧・東欧出身のユダヤ系の優秀な/独特の人材が ー 自発的に、あるいはナチスに追われて ー イギリスに渡来し、知的世界の「大変貌」をもたらす。そうした人びとのたくましい生涯も見ることにしよう。英語が商業言語より以上の知的なグローバル言語となるのは、これ以後である。
 本書はこうした人びとの生活環境として大学事情にも説きおよぶが、多くの大学は二〇世紀半ばまで男女別学である。また二〇世紀イギリスの知識人群像のうち一定の割合の人びとにとって、親子の愛情の薄さ、同性愛もふくむセクシュアリティは現実的な問題であった。いくつかのケースと並べて見ると、カーのかかえた個人的な問題は相対化されてくる。パートナーとの関係、老いと病いについても考えよう。
 <Unquote.>
少なからぬ方々にはお約束を守れず、失礼を重ねています。申し訳ありません!

2025年9月27日土曜日

近況ご報告

 まったくご無沙汰しています。ときに「‥‥ホームページのブログの更新が4月以降止まっていることを心配しています」とかいう優しい問合せをいただいて、恐縮しています。
 なんとか無事に日々を暮らしていますが、ブログの更新がないのは、① 言いたいことがないのではなく、むしろ逆で、日本の政治社会よりもなによりも、トランプの3権分立なきがごとき独裁政治について憤懣やるかたない毎日です。これほど傍若無人の男にディクタトルぶりを発揮されては、モンテスキューもジェファソンも天を仰ぐでしょう。しかし、ぼくがブログをしたためるとしても、せいぜい新聞の社説に毛を3本加えた程度の(サザエさんの父=磯野波平くらいの)コメントしかできないでしょう。虚しい。
 ブログ更新のないもう一つの理由はもうすこしポジティヴで、② 拙著
「歴史とは何か」の人びと - E・H・カーと20世紀知識人群像』(岩波書店)
がいよいよ最終局面で、そちらに集中するしかないという事情もありました。(過去形で書いているということは、今は一段落ついたということです!)
 これは『図書』の15回連載をもとにしたもので、それで骨組はできているとはいえ、調べれば調べるほど発見があり、「止められない止まらない」状態でした。最初は岩波新書にしようという話だったのに、註も図版も豊富な四六判で行こう、となり、この2年間に現地調査・取材した成果も生かしたく - といっても完璧な学術書というより、むしろ「こんなにおもしろいこと/すごいことがある。皆さんに伝えたい」としたためた試論(essay)であり、皆さんの思考と探究をうながす「いざないの書」という性格を打ち出しています。
 『図書』連載時より分量はだいぶ増えて、内容も充実したかと思います。 ← https://tanemaki.iwanami.co.jp/posts/6074
「15章+エピローグ」編成ですが、全体を3部に分け、
 Ⅰ.歴史学とオクスブリッジ
 Ⅱ.変貌するイギリスの知的世界
 Ⅲ.知と愛とセクシュアリティ
としてみました。各章の「付記」も含めて、書き込んでいます。
 やがて校正ゲラにて目次などご覧に入れられるかと思います。

2025年4月17日木曜日

主権・IR・カー

「主権国家」再考』(岩波書店)は本日、16日発売とのことですが、先にも書きました詳細な目次だけでなく、立ち読みコーナーもあって、ぼくの「序論」についてはちょうど半分、pp.1-10 がウェブで読めるようになっています。
https://www.iwanami.co.jp/moreinfo/tachiyomi/0616940.pdf (目次のあとです)
そうした出版のオンライン開示は便利だなぁと見ているうちに、さらに今月刊のE・H・カー『平和の条件』(岩波文庫)も、訳者による解説(部分)が読めることを発見。
https://tanemaki.iwanami.co.jp/posts/8771
ちょうど『「主権国家」再考』がらみで、中澤論文からドイツの Andreas Osiander による
'Rereading early twentieth-century IR theory: Idealism revisited', International Studies Quarterly 42 (1998) へと導かれ、この論文でE・H・カーの国際関係学(IR)批判が試みられていることを認知したばかりでした。
この間のいろんなことが繋がってきて、嬉しいかぎりです。

2025年4月10日木曜日

Shohei's 'might-have-been'

 『「主権国家」再考』が岩波書店のウェブぺージに載りました。中澤達哉責任編集/歴史学研究会編、岩波書店、4730円。16日刊行とのこと。詳細な目次も、こちらに → https://www.iwanami.co.jp/book/b10132793.html
先にも(3月6日)書きました「‥‥今、トランプ第二期政権は歴史も国際法もなきがごとく、独特の「主権」を主張して世界を驚愕させている。」というぼくのセンテンスは、今となっては、ちょっと弱すぎる表現でした。
 そうした折、なんと大谷翔平(とドジャーズ選手たち)がホワイトハウスに招かれてトランプ大統領と談笑する光景が報道されました。何を話したのか、あまり愉快でない報道写真でした。ここでもし Shohei Ohtani が 
「ぼくは高校しか出てないし、野球のことばかり考えてきましたが、でも高校の公民では貿易収支(balance of trade)と経常収支(balance of current account)の区別は習いました。トランプさんはどうして今さら「貿易収支」みたいな物の取引の赤字なんかにこだわって、国際的なマネーや目に見えない富のやりとりは見ないんですか? 大統領はたしか大学を出て、すごいビジネスで成功なさっているんですよね」
とか、たとえ通訳を通してでも言えたなら、Shohei's Show-time! として、万国で人気が沸騰したに違いないのに。たられば(might-have-been)史観ですが。

2023年10月31日火曜日

『図書』11月号休載 → 最終回は「E・H・カーと女性たち」

 岩波書店の『図書』に連載しています「『歴史とは何か』の人びと」ですが、申し訳ありません、11月号(899)はお休みとさせていただきます。
 第1回(2022年9月号)<https://tanemaki.iwanami.co.jp/posts/6074>にも記しましたとおり、三面六臂どころか、90歳まで執筆を続けたE・H・カー(1892-1982)ですが、その謎をすこしでも解き明かすために、20世紀のエリート群像の生きざまのなかで人物カーを脱特権化=相対化してみるという目論見でした。見開き6ぺージ(約6000字弱)の essay(試論)とはいえ、毎回、読むべきもの/確認すべきことが多くて、大変でした。肖像写真の選定にも苦労しました。しかし、それに見合う新しい発見/気付きもあり、充実した連載でした。
 元来は12回連載ということで始まりましたが、途中で15回に延伸できるかとの打診があり、やや充実させることができました。とはいえ、9月のアイルランド・イングランド旅行は(その準備段階も含めて)強烈で、連載原稿を仕上げることはできず、11月号は休載。12月号で第15回=最終回「E・H・カーと女性たち」をご覧に入れるということにさせてください。写真も含めて、それなりに印象的な最終回(有終の美!)とさせていただきます。(すでに最終回のゲラ校正も戻して、執筆者としての仕事は済んでいます。)
 ご愛読の方々、そして感想や声援を寄せて下さったみなさん、ありがとうございました。

2023年8月14日月曜日

近刊予告

近況ですが、『歴史学研究』No.1039(2023年9月)に 〈批判と反省〉『歴史とは何か 新版』(岩波書店, 2022)を訳出して (全7ぺージ)①  

『思想』No.1193(2023年9月)に 翻訳のスタイル (全4ぺージ)③  

が掲載されます。【後者は『思想』7月号「E・H・カーと『歴史とは何か』」特集号における上村論稿に触発されてしたためた小文で、そこで呈示された疑問や指摘に答えています。個人間の論争ではありません。一般的な意味を求めて、多くの第三者読者に向けて発した、論文/翻訳のスタイルについてのコメントです。ぼくもかつては清水幾太郎『論文の書き方』(岩波新書、1959)の愛読者で、卒業論文の執筆時に大いに参照しました。】
どちらも早ければ8月末には公刊とのことで、編集サイドの厚意とすみやかな作業のお陰です。ありがとうございます。
お読みになる順序としては、先にも少し書きましたとおり、
 『歴史学研究』9月号〈批判と反省〉①に最初の目を通していただき、
 その次に「思想の言葉:いま『歴史とは何か』を読み直す」『思想』7月号②を、
 そして、『思想』9月号の「翻訳のスタイル」③
という順で読んでいただくと、一番ナチュラルで良いかな、と思います。
②は、早くから岩波書店のウェブ「たねをまく」 → https://tanemaki.iwanami.co.jp/posts/7306 にて公開されていますが、やはり順序として①が最初に読めるようにみずから努力すべきだったと、段取りの悪さを反省しています。

2023年7月25日火曜日

『思想』・『歴史学研究』・『図書』

梅雨明け10日」はメッチャ暑い、とは気象予報士の言。そのとおり連日の猛暑ですが、皆さま、どうぞ慎重に、お健やかに。(蝉しぐれのなかで書いています。)

先にも書きましたとおり『思想』7月号「カーと『歴史とは何か』」をめぐる充実した特集号でしたが、8月号はなんと <特集 見田宗介/真木悠介> なのですね!
見田さんは駒場のまぶしいほどの先生でしたし、その後も社会学の学生たちを実存レヴェルで揺さぶっていた先生です。60年代には父親=見田石介がだれしも知るマルクス主義の学者で、父といかに距離を保つか、どこに自分のアイデンティティがあるか、を考え続けていたのでしょう。8月号、未見ですが、楽しみにしています。 http://kondohistorian.blogspot.com/2022/04/19372022.html でも私見をしたためました。

そうこうするうちに昨朝『歴史学研究』のための初校を終えました。9月号(No. 1039)で、
〈批判と反省〉『歴史とは何か 新版』(岩波書店, 2022)を訳出して
というタイトルです。じつは昨年8月に書き始めてすでに9月には8割方できあがっていました。どう締めるかで迷っているうちに、『図書』の連載で月々の〆切に(心理的に)追われるようになって、しばらく冬眠・春眠していた原稿です。 4月から中学の同期会とか、高校の同期生のやっている「千葉県生涯大学校」の講演とかに出かけて、旧友たちと懇談して気持も整いました。無理なく「締める」ことができたと思います。
というわけで、本当の順番は、この『歴史学研究』9月号が先で、『思想』7月号は後なのです。「思想の言葉」をご覧になって、ちょっと飛躍があると受けとめた方々には、申し訳ありません。9月に『歴史学研究』をご覧になっていただくと、無理なく接続するかと愚考します。いずれにしても、『歴史学研究』編集長とスタッフにはたいへんご心配をかけました。

なお『図書』の連載はまだまだ続きます。
第11回(7月号)ウェジウッド「女史」。 これは自分では良く書けたのかどうか分からないところが残ります。
第12回(8月号)はマクミラン社の兄弟。 こちらは自画自賛ながら、調べて書いた成果が実感できます。カーの出版についても、マクミラン社およびマクミラン首相についても、「そうだったのか!」と納得していただけるのではないでしょうか。連載のうちでも会心の回の一つです。この2回連続して、セクシュアリティが通奏低音になります。
熱心に読んでくださる読者、とくに現役の方々からいただく反応はなによりのご褒美です。ありがとうございます。

2023年6月30日金曜日

カルガモ母子と『思想』7月号

 うっとうしい天気ですが、爽快な光景です。集合住宅のアトリウム池に数日前から大柄のカルガモが一羽すわりこんでいて、大丈夫だろうかと心配していたら、今日はなんと小さな雛7羽を従えて、池を泳いでいます。抱卵して動きがほとんどなかったのでした。
ご覧のとおり浅い池なので、お母さんの脚は床に着いて、ほとんど歩いています。
 先日到来した『思想』第1191号(7月号)は、特集として出色の号かもしれません。
 カーその人、著書『歴史とは何か』とその日本における/中国における受容、20世紀史におけるカーの所説の意味(の転換)、そして清水幾太郎訳(1962)と近藤の新版(2022)をめぐって、等々、なかなかの壮観です。各論考から大いに学べます。
 なおまた、「思想の言葉」についてはウェブの「たねをまく」に公開していただいて、早々と感想を寄せてくれる方もあり、有難いことです(縦組の文章を横組に開示しているので、漢数字がやや煩わしいですが)。 → https://tanemaki.iwanami.co.jp/posts/7306 
ただし、最後の数行前に、脱落があります。
  二〇世紀を生きた自由主義者社会主義的かもしれないが「一皮むけば七五%はリベラル」の知識人の告白でもあった。
    ↓ 
  二〇世紀を生きた自由主義者--社会主義的かもしれないが「一皮むけば七五%はリベラル」の知識人--の告白でもあった。
とダーシを2箇所補ってください。たった今、再見しましたら、直っています。担当者の方、有難うございました!

 ただし同じ号のなかで唯一、「カー『歴史とは何か』と〈言語論的転回〉以後の歴史学--近藤和彦の新訳をめぐって--」に限って、大きな違和感があります。清水旧訳を名訳とするかどうかは、拙文でも述べた「年長の先生方」の懇談(p.2)を想起して「あの年長の先生方のお仲間」を相手にしているのか、と認識を改めました。その旺盛なお仕事を何十年も前から読み、学んで、遠くから尊敬し羨望してきた方の文章なので、かなり困惑しています。
 「もう一工夫欲しかった」「誤訳ではないか」「疑問点」「‥‥するべきではなかったか」と指摘されている箇所は、ほとんど誤解と無理解によるものと思われます。いずれザハリッヒに学問的にコメントしたいと考えています。ただ今、身辺が多事多端ですので。

2023年6月4日日曜日

『図書』という月刊誌

こちらに「『歴史とは何か』の人びと」という連載を続けています。5月20・21日、名古屋の学会大会では、久しぶりに対面で懇談できたのも良かったのですが、何人もの方々から「読んでいますよ」と言っていただき、励まされました。
6月号(第10回)では「A・J・P・テイラとトレヴァ=ローパ」という、ちょっと問題的な20世紀の歴史家二人について立ち入っています。それは、第1にE・H・カーが『歴史とは何か』で彼らの言を効果的に引用しているからですが、また第2に20世紀のオクスフォードの学者たちの小宇宙を - スノッブのようにあがめ憧れるのでなく - 具体的にイメージングしておくことも必要、と考えたからでした。次(7月号)の「ウェジウッド「女史」」へとつながります。
同じ6月号には、桜井英治さん、大石和欣さん、池田嘉郎さんといった面々も書いていらして、前からの「日本書物史ノート」「東京美術学校物語 西洋と日本の出会いと葛藤」といった連載とあいまって、なかなかの読み物です。
さらには、今号から「西洋社会を学ぶ意味」というタイトルで、前田健太郎さんの「政治学を読み、日本を知る」という連載も始まったのに気付きました。これからが期待されます。しかも、この記事はウェブで読めるのですね。 → https://tanemaki.iwanami.co.jp/posts/7252
そういえば、ぼくの連載「『歴史とは何か』の人びと」の第1回目(昨年9月号)も、ウェブに公開されているのでした。 → https://tanemaki.iwanami.co.jp/posts/6074
便利です。 岩波書店の英断だと思います。

2023年3月31日金曜日

ハナカイドウ

ご無沙汰しています。
花便りとともに、四季の移ろいは早い。昨日は母の一周忌でした。写真はご近所のハナカイドウ(海棠)。
要介護の家族と生活し、またオンライン会議や『図書』の連載のことなど考えていると、2月・3月もあっという間に過ぎました。
『歴史とは何か』の人びと」という連載列伝は、毎回それなりに気を入れて書けています。わがままな著者に合わせて、いろいろと工面してくださる編集スタッフのお陰です。ときに思ってもいなかった方が読んでくださっていると知れると、とても嬉しいです。
3月号は「フランス革命史とG・ルフェーヴル」
4月号は「バーリンとドイチャ、論敵と友人」‥‥ここまで既刊。
5月号は「『パースト&プレズント』の歴史家たち」
を書きました。
時代と政治と学問だけでなく、親との関係、夫婦のこと、老いの生き様など、さらに書き込むべきことがらは多い。列伝ですので、書きすすむに連れて、互いの同時代的な関係が浮き彫りになってくるのは愉快です。まずは骨組をしっかり書いておかないといけません。

2023年2月4日土曜日

『みすず』誌

 寒いといってもすでに立春。近隣の散歩道のユキヤナギは無数の小さなつぼみを付け、いくつか目立ちたがり屋の雪白の小花も咲いています。
 2日ほど前に『みすず』no.722 (1・2月合併号) が到着。恒例の「読書アンケート特集」です。これは百数十名の執筆者の読書嗜好とともにその個性、そして現況がうかがえる企画で、毎年楽しみにしています。今世紀に入ってからは書き手に加えていただいたので、年末年始の慌ただしい折とはいえ、何をどう書くか、何日か悩むのも楽しい。
 今号の場合は pp.98-99 に
・R. J. エヴァンズ『歴史学の擁護』〈ちくま学芸文庫, 2022〉
・David Caute, Isaac and Isaiah: The Covert Punishment of a Cold War Heretic (Yale U.P., 2013)
・G. ルフェーヴル『1789年 - フランス革命序論』(岩波文庫, 1998)
Oxford Dictionary of National Biography (Online, 2004- )
・S. トッド『蛇と梯子 - イギリスの社会的流動性神話』 (みすず書房, 2022)
の5つをめぐって、ちょっとしたためました。すべて E. H. カーおよび『歴史とは何か 新版』、そして『図書』の連載(『歴史とは何か』の人びと)に、なんらかの側面で関係することばかりです。

 同じ『みすず』では、川口喬一さんという英文学者が、『歴史とは何か』拙訳および T.イーグルトンにおける(笑)をめぐって鋭く指摘しておられます。『新版』の訳文および挿入の[笑]について、ここまで的確に受けとめ、評してくださった方は、他になかったような気がします。
「‥‥訳者がおそらく多く意を注いだのは、オックスブリッジでの講演者独特のポッシュ・アクセント(あえて言えば息づかい)の翻訳であったろうと思われる。‥‥当然のことながら(笑)のタイミングは難しい。笑いはしばしば講演者と聴衆との共犯関係、前提の共有によって成立するからだ。カーの立論もまた聴衆との知の共犯関係を前提にして展開されている。共感と逸脱のスリル。」pp.8-9.
 そして段をかえて、イーグルトンの講演をめぐって続きます。「‥‥アメリカではしばしば観客を爆笑(笑)させているのに、エディンバラでは、間を置いて待ってもイーグルトンの期待した(笑)が起こらず、講演者が「つまんねぇ客だ」と呟く場面も見える。‥‥この場合、文化の場における共犯関係がすれ違っているのだ。」p.9. 以上の引用文では( )もママ。
 川口さんは、1932年生まれとのこと。だとすると二宮、遅塚と同い年で、今、(誕生日前なら)90歳ということでしょうか? 上に引用したより前の段では、鹿島さんの『神田神保町書肆街考』をめぐって、川口さんが北海道から東京に進学してより、池袋・茗荷谷・本郷・神保町をむすぶ都電を愛用して通ったという神保町書肆街のこと、そして戦後の洋書事情が語られています。p.8. この都電は、ぼくが大学に入学したときにはまだありましたが、本郷に進学した68年には無くなっていました。
 ところで、この知的で愉快な月刊誌『みすず』が8月で休刊とのこと!? 驚きです。残念です。ただし、この「読書アンケート号は、なんらかの形で継続する予定です」とのこと。p.109. 恒例の楽しみです。どんな形でも継続してほしい!

2023年1月28日土曜日

年末年始のこと:1

年が改まっても、新年の挨拶もなく、このブログも一向に更新されないので、ご心配いただいているかもしれません。そもそも3月に母が亡くなって、年賀状は控えました。

月刊『図書』の連載「『歴史とは何か』の人びと」* はアタフタしながらも、なんとか続けています。毎回、たっぷり勉強して(積ん読だけだった本もすみやかに読破して)新しい発見もあり、「楽しくて為になる」連載です。
* 9月:トリニティ学寮のE・H・カー → https://tanemaki.iwanami.co.jp/posts/6074
10月:謎のアクトン。11月:ホウィグ史家トレヴェリアン。12月:アイデンティティを渇望したネイミア。1月:トインビーと国際問題研究所。2月:R・H・トーニと社会経済史。3月:フランス革命史とルフェーヴル。‥‥

ところが、旧臘19日に2月号(トーニと社会経済史)の原稿を仕上げ、ホッとしたとたんに、翌20日未明に事故発生。
トイレにゆこうとした妻が体の向きを変えようとして、尻もちをつきうめきました。段差も障害物もないのですが、布団がはみ出ていたかもしれません。痛がっていましたが、すごい転倒というわけでもなく(事が深刻とは想像もしなかった)、明るくなるまで待ってもらい、タクシーで、なじみのカイロプラティークに行きました。しかし、これは外科に診てもらわねばならないということで、救急車に頼りました。
【救急車はあまり待たずに来て車内に収容されましたが、時節柄、空いている病院を探し当てて車が動き始めるまで、3人の隊員が電話をしまくって、82分もかかりました! 病院まで、別に渋滞していたわけではないが、28分計110分。医療逼迫の現実を身をもって認識しました。】結局、かなり遠い、初めての病院に到着。検査の結果、股関節の大腿骨頸部骨折でした。
70歳以上の(ときには還暦以後の)女性によくある大怪我ということで、そういえば、6月に△さん、前年に◇先生と、先例を指折り数えることができます! 「段差のない所で、何につまずいたということでなく、ふわっと転んだ。強い打撲というわけでもないのに骨折した」といった話を他人事として聞いたばかりでした。
医師には、骨折部分に金属ボルトを入れる手術が必要、術後のリハビリを含めて3週間の入院、と告げられました。
ただちに入院手続をとって、想い出したのは、2010年にケインブリッジで知り合ったX夫人からうかがった話です。- 彼女は交通事故で入院し、手術は成功しても半身不随になると予告されたので、それなら、と入院中に医師・看護師が見ていない時にできるだけ四肢を動かし(最初はベッド内で、後には起き出して)、この自発的運動によって、みごとに今のとおり完全恢復した、とおっしゃるのでした。このエピソードを想い出して、二人で話題にしました。

 コロナ禍ですので、手術後、見舞いに行っても直接会うことはできず、すべて看護師をつうじての伝達・受け渡しと決められていました。しかも最初は大部屋で、電話は禁止。そこで考えて、昔の女子高校生がやっていた「交換日誌」みたいなノートを、未使用の手帳から作成しました。個室に移って電話できるようになってからも、これは役立ちました。<つづく>

2022年12月14日水曜日

チャールズ3世の即位と立憲君主制

 『世界』1月号(12月10日ごろ発売)No.965 に「チャールズ三世の即位と立憲君主制のゆくえ」という拙稿が載っています。
 エリザベス二世の国葬儀の朝(9月19日)に『朝日新聞』に載った「二人のエリザベス」を見た編集者が依頼してきたものですから、おお急ぎで、研究者にとっては既知のことを述べたにすぎません: pp.133-142.しかし、一般には常識・通念にはなっていない大事なこと、共有すべき知識というのは、少なくない。
 エリザベス二世の死、チャールズ新王の即位(5月に戴冠式)という代替わりに、国のかたち、権力のしくみが明示的に集約的に現れます。それは日本における1989年、2019年にも同様でした。歴史学や国家学の研究者を刺激してくれる良い機会です。
 ちょうど個人的にも礫岩のようなヨーロッパ(山川出版社)、天皇像の歴史を考える:コメント『史学雑誌』、王のいる共和政 ジャコバン再考(岩波書店)といった共同研究の成果をふまえて、十分に述べることができたと思います。いわゆるアウトリーチです。 → https://websekai.iwanami.co.jp/ 
 なお『世界』のこの号は、特集ではなくても加藤陽子さん、橋本伸也さん、藤原帰一さんなどなど、関係しないではない記事がいくつもあり、楽しめます。「アメリカの憂鬱」という up-to-date な特集もあります。

2022年11月27日日曜日

Great outline & significant detail

   しばらくご無沙汰していますが、offline ではミニマムの諸々をこなしています。
 『図書』に連載しています列伝「『歴史とは何か』の人びと」の第4回(12月号)は「アイデンティティを渇望したネイミア」というタイトルです。ルイス・ネイミアについては、むかし『英国をみる - 歴史と社会』(リブロポート、1991)で「ネイミアの生涯と歴史学 - デラシネのイギリス史」という小文を書きましたが、今はE・H・カーおよび20世紀前半の知識人の世界でネイミアという人物をとらえなおそうとしています。
 一方では「ユダヤ人でありながらユダヤ教徒でなく、ポーランド生まれでありながらポーランド人でなく、地主でありながら土地を相続せず、結婚しながら妻は不在」とされる不幸なネイミアですが、他方でカーは、かれこそ「第一次世界大戦後の学問の世界に登場した最大のイギリス人歴史家」という賛辞をささげます(『歴史とは何か 新版』p.55)。この不思議な「‥‥粗野で態度が大きく‥‥2時間でも自説を弁じ続け」る男の学問は、カーの緻密な実証主義の手本でもあったわけです - この点は溪内謙さんも十分な理解は及ばなかったかな? またネイミアはアーノルド・トインビーともA・J・P・テイラとも(ひとときは)親しく交わった。そして、むしろ彼の死後に勢いをもつ修正史学の先鞭をつけたようなところがあります。
 学問とはすべて本質的には(アリストテレス以来の定説の)修正であり、長い註だ、という観点に立つと、ネイミアはまさしくそうした revisionism という学問の王道を行った人ということになります。だからこそ(一見正反対にみえる)E・P・トムスンも、あのリンダ・コリも、ネイミアの名言:「歴史学で大事なのは、大きな輪郭と意味ある細部だ」には脱帽するしかないわけですね。
 これは、オクスフォード・ベイリオル学寮で、トインビーとの座談のうちに出てきたセンテンスらしいですが。
 ‥‥ある樹木が何であるか調べるのに、枝が何本あって何メートルあるか計測してみても何にもならない。樹影全体の形を見きわめ、樹皮を見、葉脈の形状を調べるべきなのである。それをしないまま泥沼のようなどうでもいい叙述にはまることだけは、避けなければならない。
 秋の快晴の空を背景に屹立するみごとな欅を見上げつつ、想い出しました。(枝も葉もなんとなく右に傾いているのは、右が南だから‥‥)

2022年9月18日日曜日

エリザベス女王からチャールズ王へ

今夕配信の『朝日新聞』オンライン版 ↓
https://digital.asahi.com/articles/ASQ9J6581Q9HUCVL044.html
で拙稿が公開されました。印刷版では、女王の葬儀(文字どおりの国葬です)の19日(月)朝刊に載るはずのものですが、ウェブでは半日早く公開されるのですね。
他の識者・先生方とはちょっとちがう議論をしています。『イギリス史10講』も『歴史とは何か 新版』も『王のいる共和政 ジャコバン再考』も著している者として、短いスペースながら言うべきことは言いました。
ウェブですとカラー写真で、かつ「紙媒体では所定のスペースから溢れ出てしまい、ボツになったチャリティ法についてのパラグラフ」が甦りました! ここにこそ、ウェブ版のメリットあり、ということですが、しかし、これでは紙離れ、ウェブ志向が、ますます進行してしまいます! ちょっと心配。

『歴史とは何か』の人びと(1)

 いま台風14号が襲来中の地域のみなさまには、済みません、悠長すぎる情報かもしれません。

 『歴史とは何か 新版』に関連して、月刊の『図書』に連載を始めました。 「『歴史とは何か』の人びと」第1回は「トリニティ学寮のE・H・カー」です。9月号(通巻885号)、こんな具合で、毎回計6ぺージです。↓

紙幅もあり、あまり立ち入っては書けませんが、それでも『歴史とは何か 新版』の訳註や補註には書ききれない、それなりに意味あることを述べてゆきたいと目論んでいます。
 岩波書店の『図書』誌は、『みすず』や『未来』、そして今は消えてしまった『創文』とならんで、むかしは大学生協書籍部に、自由に持っていってくださいって具合に置いてありました。定期購入する場合も、たしか1部10円、年間100円といった「第三種郵便」の郵料だけ負担で、「安い!」と感動したものでした。今も、見てみると定価102円、1年分まとめて購入すると1000円(送料共)ですから、やはり安いと言えますね。
 大学図書館、公共図書館にもかならず置いています。

いま気付きましたが、岩波書店の WEBマガジン「たねをまく」にこの第1回の全文が載っています。こちらにはハイパーリンクも張ってあるので、便利! → https://tanemaki.iwanami.co.jp/posts/6074

2022年9月1日木曜日

池袋のジュンク堂

昨日、外出のついでに池袋のジュンク堂に行ってみました。その1階入口には「現在と過去の対話のために」と題する、例の特製ブックガイドにもとづく展示があり、
4階にはジュンク堂開店25周年特別企画として「人文学入門の手引」による展示があり、
それぞれ、なかなかの壮観です。
『歴史とは何か 新版』にともなう岩波書店の「特製ブックガイド」23点について、前にこのブログで触れました。 →https://kondohistorian.blogspot.com/2022/08/blog-post.html
人文学入門の手引」は、7月にジュンク堂からの委嘱があり「歴史学」というジャンルについて5点を推薦ということで、こんな原稿を用意したのでした。

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 人文書5冊(歴史学)
1.『翻訳語成立事情』  柳父 章 (岩波新書、1982)
 高校3年生や大学1年生が最初に読むべき本。言葉は歴史的に生まれ、使われてきた。「自由」も「社会」も「個人」も「愛」も「彼・彼女」も幕末・明治の東西交流から生まれた。
2.『社会認識の歩み』  内田義彦 (岩波新書、1971)
 社会を歴史的に考えるキミのために。マキアヴェリは運の女神は前からつかまえるしかないと主体性をうながし、ホッブズは国家を論じる前に人の感情に立ち入って考える。
3.『歴史学入門 新版』  福井憲彦 (岩波書店、2019) 
 歴史学をはじめとする学問は20世紀に大きく転換した。今どのような景色になっているか、本書はバランスよく指南してくれる。このあと何を読むと良いか、文献案内もたっぷり。
4.『全体を見る眼と歴史家たち』  二宮宏之 (平凡社ライブラリー、1995)
 フランスで生まれ展開したアナール学派。パリで彼らと一緒に史料調査し、議論した二宮による自分ごととしての歴史学。この語りにあなたの心が動かないなら、歴史学はあきらめよう。
5.『歴史とは何か 新版』  E・H・カー 近藤和彦訳(岩波書店、2022)
 名著の新訳・註釈付き。「歴史とは現在と過去の対話」、そして「すべての歴史は現代史」といった有名なせりふの意味を知りたければ、これを読むしかない。歴史学入門の仕上げ。
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ところが、内田さんも二宮さんも版元品切ということで、しばらく悩んだあげく、エイヤッと ↓ 写真のように差し替えてみたわけです。
 

ぼくの差替え部分はさておき、日本近現代史、イギリス史、ドイツ史、フランス史など、それぞれなるほどと思わせる選書です。しばらく見て歩いたあと、同じ4階に清水幾太郎関連の本が何冊かあり購入しました。計1万円をこえたので、4Fカフェで一杯分のサービス券がもらえて、一服しました。

2022年8月5日金曜日

WINEのシンポジウム(9月11日)

ありがたいことに早稲田大学のWINE研究所で、下記のような催しを企画してくださいました。こちらをご覧ください。参加希望の方は、事前の視聴申込・登録が必要です。
https://www.waseda.jp/inst/cro/news/2022/07/14/9747/
http://wine-waseda.com/project
ポスターはこちらです。 → https://twitter.com/WineWaseda/status/1546439755449368576/photo/1

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WINEオンライン・シンポジウム「E・H・カー『歴史とは何か』を読み直す」(第12回研究会)
日時 2022年9月11日(日)14:00~17:00
場所 Zoomによるオンライン・シンポジウム(申し込み方法は下記のとおり)
開会の辞・注意事項 中澤達哉(早稲田大学・WINE所長)
報告者      近藤和彦(東京大学)
        「『歴史とは何か』を読み直してみると」
コメンテーター 池田嘉郎(東京大学・WINE招聘研究員)
申し込み方法
  参加については事前登録制を設けます。参加費は無料です。
多数の参加が見込まれます。視聴申込はお早めにお願い致します。
登録情報に基づき、講演会の2日前までに、主催者の中澤からZoomURL、レジュメを配信致します。
以下のGoogleフォームから参加登録いただけますと幸いです。
 https://bit.ly/3RbQusu

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