2019年12月13日金曜日

英国の解体


 悲しい予測が当たり、イングランドにおけるジョンソン保守党の圧勝、コービン労働党の完敗、スコットランド国民党の勝利、という選挙結果です。株式や為替市場がこの結果を歓迎しているというのは、国有化・反大企業をとなえる労働党(社会主義)政権への見込みがなくなったことを歓迎してのことでしょう。
 Get Brexit done! という単純でナイーヴなジョンソン路線が有権者に是認され、来年早々にヨーロッパ連合(EU)からの離脱手続に入ることになります。
 これではっきりしなかったイギリスの先行きが見えてきた、と歓迎する人は、問題の表面しか見ていない。ニワトリ程度のレベルの知性しか持ちあわせていません。ジョンソン政権が公言してきたことは、すべての問題をEUの官僚主義に帰し、イギリスが国家主権を回復すればすべてが解決するというだけで、なにも具体性がない。ヨーロッパから離れて、どうするのでしょう? 頼りにする盟友は、アメリカ合衆国? インド? 中国? すでに破綻した造船業は中国資本の肩入れで営業継続というニュースがありました。日本企業はどんどん離れて行きます。
 なにより憂慮するのは、労働党のこれからです。
 
 図に示すのは Politico の世論調査で、2016年のレファレンダム以来、もう一度あらためて(冷静になって)EUについてレファレンダムをやるとしたら、あなたはどちらに投票しますか、という「仮定の Brexit Referendum」です。2016年6月の投票の一瞬だけヨーロッパ離脱(Leave)票が50%を越えましたが、その後は一貫して、今日までヨーロッパ残留(Remain)派が常に数%の差をつけて優位なのです! つまりイギリスの有権者は悔い改めている! しかも別の調査では、若者であればあるほどヨーロッパと一緒でいたい派。
 こうした絶好のチャンスであるにもかかわらず、党の方針としてヨーロッパ残留、EU内での改革、孤立主義との闘い、を唱えることのできなかったコービン労働党とは何なのか。多くの良識派が党から去り、今回の総選挙ではイングランドでもスコットランドでも議席を失ったのには理由があります。コービンは直ちに党首を辞するべきです。
 なお、Scottish National Party は「民族党」ではありません。スコットランド民族というものは存在しないので。むしろスコットランド国民としての誇りをかかげた政党で、イングランドが賢明であるかぎり、ヒュームやスミスの時代から、連合王国として一緒にやって行こうとしてきたわけですが、これほど愚かで自己中のイングランド政治家たちを見ていると、分離独立してEU内に留まるしかないという決断を下すのも理解できます。
 北アイルランドは、さらに険悪なことになるかもしれません。

 EUのメンバー国にとっても、イギリス連合王国の離脱が良い効果をもたらすはずがなく、‥‥これまで、文明の中心、高等教育の拠点としてかろうじて存続してきたヨーロッパが、そうした知的ヘゲモニーを失い、グローバルな地殻変動(大混乱!)の21世紀へと突入するのでしょうか。2001年から始まっていた悪の連鎖ですが。
 経験と良識のイギリス知性が完敗した2019年総選挙でした。
 イギリス史を研究する者として、悲しく無力感を覚えます。

1 件のコメント:

勝田俊輔 さんのコメント...

近藤先生

北アイルランドがどうなるか、全く目が離せません。
第一に、先日の選挙では18議席(UK全体は650)のうち、ナショナリストとされる側(複数政党)が、ユニオニストとされる側(同)を上回りました。これは、北アイルランド議会選挙において前例のない事態です。
第二に、今回の離脱協定は、南北アイルランド国境ではなく、アイリッシュ海(北アイルランドとブリテンの間)を関税の境界線としています。
両者をまとめて見れば、近藤先生の言われるようにUKの枠は弱まり、アイルランド島の枠がこれまでより強く意識されることになるはずです。

アイルランド島からブリテン諸島の歴史を学ぶ者からすると、事態がこんな風にも見えます、という意味で、一筆したためさせて頂きました。失礼申し上げました。勝田俊輔