個人的経験として、一著者が幸運にも有能な編集者・出版人と知りあって、一緒に仕事する過程でいろいろな助言を得て、学習し、ゆっくり育つということはあったでしょう。【ヴェテラン編集者の場合は、逆方向のヤリトリで学習をくりかえしつつ、逞しく育つのでしょう。】しかし、今回のように4種の出版について、それぞれ編集者=著者間の良き友情もうかがわせつつ、経験と教訓が公共的に語られたのは稀有なことです。若い研究者には未知の世界を垣間見た思いでしょう。
感動のあまり、一人の胸に収めることあたわず、以下、順不同で感想を述べます。
・佐藤公美さんは(他の問題とともに)何語で書くかという論点を呈示され、これはまじめな外国史研究者の悩んできた問題です。もうすこし(別の機会にでも?)語り合い、深めるべきかと思いました。
また専門論文は、著書という形でなくとも、専門誌や論集への寄稿という形での publication があるわけで - そのほうが読まれる機会も相対的に多かったりして -、ガチの専門書出版は、助成金なしには難しいですね。とはいえ、佐藤さんの報告は多岐にわたりましたが、「文体」の指摘も含めて、もっとも深く考えられた感動的なものでした。心ゆさぶるものがありました。
・白水社の糟屋さんが、出版サイドの判断として、厚い本だからといって困るとは限らない、むしろ薄くて苦労することもある、とは眼から鱗でした! コスト計算が合理的に成り立ち、内実のともなう本でさえあれば、良心的な出版社は OK してくれるのですね。内実しだいというのは、心強い。
・金澤周作さんも言われたとおり、一般学生(あるいは積極的な高校生)にとって新書は学問(考えること)への良き道案内です。岩波書店の飯田さんの巧みな表現によれば「観光案内」なのですから、ぜひ実力ある執筆者にはまじめに/本気で取り組んでほしいと思います。じつは一般学生や読者だけでなく、他分野の専門家にとっても、岩波新書は最初に頼れる導師、信頼できる博識な「観光ガイド」なのです。
ただし、たとえば柴田三千雄は中公新書と岩波新書を書いたけれど、二宮宏之は書かなかったというように、向き不向き/ときどきの巡り合わせはあるでしょう。それにまた、新書ばかり量産している方は、あまり近くに居てほしい人ではありません‥‥。
ポイントはむしろ新書かどうかよりも、低価格の(今日では2000円未満くらい?)、しかも目に止まりやすい出版が、ひろく知的に飢えた若者向けに必要なのだと思います。小山哲・藤原辰史『中学生から知りたいウクライナのこと』の場合は、迅速な公刊という点でも、特別な賞賛と推奨に値する出版でした。
・井上浩一さんと江川温さんのやりとりから展開して、討論されたとおり、翻訳および新書の苦労と成果についても、しっかり踏みこんだ、批判的な書評がぜひ必要というのは、大賛成です。
・最後の松本涼さんがアウトリーチ、「協働」について具体例を紹介してくれました。ぼくにはちょっと別世界の感がありますが、それぞれの世代、それぞれの感性にたいするアプローチは必要でしょうね。ただしぼく自身が関われるのは、せいぜいブログまでです!
感激のあまりの、妄言多謝です!
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