この季節、12月の半ばを過ぎると東大ではさすがに学内校務はなくなって、論文審査と(もしあるなら)学外の公務を片づけ、期日を超過した原稿の執筆に入るといったパターンでした。「卒業論文指導」みたいなことは、在任中にやったことなかったような気がする‥‥。そもそも教師にとって学部生の指導は一番の業務ではなく、卒業論文のためにはTAがサブゼミを開いているのだから、こちらが余計な口出し手出しをする必要はなかった。また学生の立場からすると、むしろ積年の自分の読書と先輩の助言によって獲得したリサーチ力と執筆力を示す(自分は「アホやない」ことを証す)、というのが卒業論文であったし、今でもそうあり続けるのではないでしょうか。
ところが、どうも私立大学の文学部では事情がちがうようで、教師がなにからなにまで教えこんで、手とり足とり指導するのが普通のようです。毎年度、たとえば
- 段落は大事だよ、何故かわかるかな? 最初は1字下げるんだ。小学校の国語で習ったね。句読点もよく考えてつけよう。もし行末に来たら欄外にはみ出す約束、「ぶら下げ」ってんだ。よく見てご覧、ひとの論文は、章ごとに新しいページの頭から始まっているね。‥‥
- 読んだ文献を使いながら議論に筋道をたてる。根拠を示すために、それぞれの箇所に註が必要だね。 1), 2), 3) って番号を上付に振ってゆくんだよ。好みで括弧なしでも (1), (2), (3) でもいい。脚註でも章末註でもいいよ。‥‥
- 最後に参考文献表が必要不可欠。重要文献で、じつは読めなかったというものも挙げていい。ただし * とか # とか印をつけて区別するんだよ。
といったことを「卒論演習」の教室で言うだけでなく、個人面談でも(この子にこれで何度目だと思いながら)一人一人くりかえし「教える」というのは、じつに新鮮な経験です。そもそも『卒業論文作成の手引き』という5月に配布したパンフレット(計21ページ)に99%は書いてあることなのに! 大事なことは何度でも言う、根気が肝要、Teaching is learning という格言を再帰法的に実践しています。
昨年の4年生ゼミは13名で個人面談を12月26日(金)までやっていましたが、今年は21名、最後は28日(月)です! もしや1月4日にも追加面談‥‥。
この暮は、連夜の学外公務をようやく終了して、25日に4年生全員に宛てて送信した一斉メールで、次のように述べました。長文の一部で、ちょっと推敲してあります。
Quote: ------------------------------------------------------------
II. よい卒業論文のポイントを確認します。
§ なにより次の3点が大事です。
a. Question (問い、何を知りたいのか)を明記し、個人的動機も述べる。標準的な研究文献にもコメントがほしい。
b. 文献を読み調べてわかったこと、目を開かれたことを論じ、典拠を註に明示する。論文なのだから、高校の教科書に書いてあるようなことはクドクド述べない。議論の筋道を意識する。複数の研究者や専門論文、その間の違い・ズレを註に記すだけでなく、その差異の意味を本文で論じていれば、つまり、分析的な文章になっていれば、すばらしい。
c. Question にたいする答え(Answer)を述べる。
どこでどう述べるかは、人により違っていてよいし、力の見せどころだが、理想的には、
a. → はじめに(序)でクリアに述べる。長くなくてよい。
b. → 本論(1章、2章、3章)でダイナミックに展開する。これはどうしても長くなる。
c. → おわりに(結)で述べる。短くてよい。
§ 原稿はプリントアウトして読み直し、筋の通った明快な日本語になっているかどうか確認し、みずから添削し改善する。
最初から最後まで、根拠・典拠をしめす註をつける(註は多いほどよい;ウェブページなら URL を示す)。註のない文章は、卒業論文とは認められません。
註と参考文献とは、別物です。それぞれ必要。
巻末に参考文献リストをかかげますが、みずから読んでない文献には * ▼ † などの印を付して区別します。
図版や表は、分かりやすい位置にあれば、本文中でも巻頭・巻末でも問題ありません。写真やコピーも可。学校内の教育・学術目的の使用ですから、著作権・複製権などは問題になりませんが、どこから取ってきたか(出典)は明示。
念のため、出典をあきらかにした引用と、出典を隠した盗用=剽窃(ひょうせつ)とは全然ちがうものです。前者は学問、研究の本質。後者は窃盗であり、犯罪です。
------------------------------------------------------------ Unquote.(加筆、推敲)
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