2018年8月21日火曜日
教養と新聞記者
このところちょっと『日経』をほめすぎたようですから、今日は苦言を。
「歴史や哲学 手軽な教養書ヒット」という『日経』8月13日(月)夕刊の記事。
「教養書ブームの歴史」という横組の年表(?)も添えられていますが、1954年のカッパブックスに次いで1968年の吉本隆明『共同幻想論』、その次は1976年、渡辺昇一『知的生活の方法』、そして1983年浅田彰『構造と力』‥‥、といった選択の基準がわからない。テキトーに10年に一つを選んだということかもしれないが、それにしても戦後の高度成長期に「世界文学全集」のたぐいが各社から出て、戦前からの岩波新書の好調に続き(この記事にも言及された光文社「カッパブックス」の後には)、中公新書、講談社現代新書の創刊が続いたこと、そして60年代半ばから90年代まで『岩波講座』が大学生市場を席巻したという事実をうかがわせる兆候は示してほしい。
本文では、野本某の言「いずれ古びるハウツー本を読むより、古典的な教養に触れた方が自分が高まると感じる人が多いのではないか」という引用。その2段下には、歴史学者(?)與那覇某の言として「教養を通じて、無限に広がる世界へアクセスしたいと思っている読者は、そう多くない。‥‥昔から伝わってきたものに宿る本物らしさに、安心を求めているのでは」と引用されている。
これでは、できの悪い大学生のレポートみたいなもので、「教養」というものに触れたい人が多いのか少ないのか、いったいどっちなんだ、と詰め寄りたくなる。両者の意味する「教養」の内実が違うと示唆しているわけでもなさそう。だれがどう言っていますという引用センテンスを並べるだけなら、キッザニアで「記者ごっこ」をして遊ぶ孫たちにもできる。
さらにいえば、戦後の高度経済成長にともない、大学進学率が(1950年代の)8%くらいから(70年代に)20%を越え、(2000年代には)40%を越えました(男女計)。2010年以後進学率は50%を越えたとはいえ、停滞しています(当然でしょう!)。そもそも若年人口も総人口も大卒人口も「団塊の世代」の250万人/年が押し上がるとともに増えてきたわけで、教養主義の盛衰は、大学生( → 大卒者)の絶対数および総人口比とあきらかに相関しているでしょう。
→ 文科省の発表数値を西暦に書き直した表(4大について)
→ 大学への進学率グラフ(第6図が4大について)
→ 年次統計.com(短大を含む進学率)
そうしただれでも思いつく事実の示唆さえないのは、担当記者(2人)の取り組みのええかげんさを示しています。つまり、これは「盆休みの[スペースを埋めるためだけの]消化記事」だった、ということなのかとさえ疑われる。
デスクにも責任があります。「しっかり事態を観察して、背景を調べ分析し、立体的な論理をたて、こうだという説得性のある文章にして、初めて大卒の書いた記事になるのだ」とかいって原稿を突っ返す、デスクはいなかったのか。
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