2020年9月15日火曜日

戸田三三冬『‥‥アナキズムの可能性』

 戸田三三冬さんという存在感のある女性の、ドシッと重い遺稿集。カバー折り返しの写真も「みさと」さんの面影をよく伝えています。
 本のメインタイトルは『平和学と歴史学』(三元社)とあり、これだけではおとなしい印象ですが、副題のほうに意味があり、じつはすごい大冊で600ぺージになんなんとし、巻末の索引は夫・三宅立さんによる周到なもので16ぺージにおよびます。アナキズム、アナーキー、インタナショナル、社会主義、愛郷心・愛国心(patriotismo)、くに・故郷・祖国(paese)といった語を手引に、ぺージを前に後にくって読み返す価値があります。
  戸田三三冬さん(1933-2018)は、略歴からみても、
  卒業論文(1960)で「ドイツ11月革命におけるレーテ」
  修士論文(1963)で「第一次大戦中における中欧再編問題」 
  フルブライト奨学金でアメリカ・ボストン留学、ヨーロッパ旅行 
  アナキスト・マラテスタの著作に遭遇して、日本アナキストクラブに参加
  三宅立さんと結婚 
  イタリア政府給費留学生としてナポリ留学 
  各大学で非常勤講師を重ねつつ、1990-2004年に文教大学教授
  日本平和学会のシンポジウム「人間・エコロジー・平和」を企画・司会
  マラテスタ研究センター主宰 
といった具合に、三面六臂の活躍でした。  
 戸田さんはぼくよりずっと年長で、親しくお話しする機会は多くなかったし、会合でぼくが発言しても「坊や、いいこと言うわね」程度にあしらわれたように記憶します。それにしても本書に集められた論考も授業の記録も、人柄と語り口をしのぶ良きよすがとなっていて、懐かしいものです。たとえば、巻末の長い「解題」にも紹介されているとおり、
  [長いヤリトリのあと] 
  司会:「‥‥ストップしないと(戸田先生の話は)止まらないから」 
  戸田:「一つ言わせて! 私の平和学の根底にはアナキズムと仏教があります」
  司会:「それはみんなわかっている」
  会場と戸田:「ハッハハ」(p.528) 
  
 じつはいま「ジャコバン研究史から見えてくるもの」という拙稿、すでに去年に執筆したものですが、ただいま再考中でして、 「彼[マラテスタ]にとっては社会主義者、アナキスト、インタナショナリストは、常に同義である」(p. 363) といった戸田さんの文章に「再会する」ことにより、わが身体にいつしか刻みこまれたマルクス主義的≒近代主義的偏向(!?)をあらためて反省します。 
 イタリア人アナキスト・マラテスタは在ロンドン、1881-1919年。イギリス史の基本的レファレンスである Oxford Dictionary of National Biography にも当然のように Errico Malatesta が(クロポトキンなどとともに)立項されています。ロンドンの亡命者コミュニティというのは、すでに1840年代から呉越同舟で、おもしろい。なんと1905年、08年にはあのレーニンもマラテスタたちの居るロンドンに滞在しました! 顔を合わせてしまったら、どうする/したんでしょう?

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