2010年12月27日月曜日

大阪にて

 たいへん充実した研究会、その翌朝です。
 この勢いで、しっかり実りある冬休みを過ごしたいものです。
 皆さん、良いお年を!

2010年12月26日日曜日

Amazing Grace 映画


           図像は Wikimedia Commons →

映画「アメイジング・グレイス」について、「ウィルバーフォースと友人たち」という題で、要旨、下のようなことをしたためました。来春3月5日から一般公開されるときに、頒布パンフレットに載ります。あらかじめ、ほんの一部を抜粋してご覧に入れます。

 テーマは、激動の時代における人の生き方と信仰、友情、政治と正義。主要な登場人物は実在の4人です。

 主人公ウィリアム・ウィルバーフォース(ウィルバーと呼ばれ続ける)1759~1833
 その親友ウィリアム・ピット(24歳で首相) 1759~1806
 ホウィグの怪物政治家、チャールズ・フォックス 1749~1806
 奴隷貿易船の航海士であったジョン・ニュートン 1725~1807

彼らについて歴史的な知識があると、映画のおもしろさは倍増するでしょう。もちろん全員、ODNBに項目があります。
 奴隷たちの亡霊に囲まれつつ、回心したニュートンの作詞した賛美歌が「アメイジング・グレイス」です。
 「すばらしい神の恵み
  私のようなヒトデナシも救ってくださった。
  かつて私は道に迷っていたが、神は見いだしてくださり
  かつて目の見えなかった私だが、今は見える」

 18世紀~19世紀の初め、
   カリブ海の西インド諸島 ⇔ アフリカ ⇔ イギリスなど西ヨーロッパ諸国
のあいだの三角貿易とイギリスの産業革命が表裏一体だったことは、最近の世界史の授業では常識かもしれない。「アメイジング・グレイス」に歌われるような回心と改革の Evangelicalism は、まだ常識ではないでしょう。女性作家ハナ・モアは、英文学関係者には知られていますね、大石さん。
 福音伝道主義者が取り組んだいくつもの課題のうち、奴隷制および奴隷貿易の廃止をめぐって、これを男の友情として描いたのが、映画 Amazing Grace だと言えるでしょう。ケインブリッジにおけるぼくの先生 Boyd Hilton, そして友人 Joanna Innes の研究テーマでもあります。(12月18日イギリス史研究会の) moral economy 論もまた、この転換期をどう理解するかといったことに極まります。
 もっとも良い参考文献は、『イギリス史研究入門』の5章(長い18世紀)、6章(19世紀)、10章(議会)、11章(教会)、12章(帝国)でしょうか。

 時代考証をふまえた映像情報もゆたかで、男女の衣装も、婚活マインドも楽しい。ジェイン・オースティンを連想する人も少なくないでしょう。温泉都市バースにおける社交、議会の本会議場における討論のテンポとウィット、558名いるはずの議員が重要案件の議決にさえあまり出席しないという事実、本会議場の別棟にあったクラブの様子もまた、印象的。
 ピットは享年46歳、首相在任中に過労死。ライヴァル、フォックスも同じ1806年に死にます(56歳)。ところが闘病をくりかえしていたウィルバーのほうは、結局、74歳まで生きながらえます。映画の前半の「結婚は愛と健康をもたらす」という従兄弟ソーントンの言は、伏線として置かれていたのでしょうか。
→ http://www.imdb.com/video/screenplay/vi330694937/

2010年12月25日土曜日

The King's Speech 映画


 今夕、忙中の時間をつくって、試写会に行って参りました。邦題は「英国王のスピーチ」、ご存じジョージ6世(在位1936~52)と先年101歳で亡くなった Elizabeth Queen Mother、そして知られざる Lionel Logue の3人を中心とした、感動の物語です。
 期待せずに行ったのですが、2時間の上映の終わりには、感涙。いくら顔をふいても止まらず、照明の前に長いクレディトのつづいたことに感謝したほどです。左右の男女もすすり上げていました。清らかな涙と、シネマートの外、夜の六本木の雑踏 ‥‥ なんというコントラスト!

 ジョージ5世の長男エドワード(David)は外向的で、女にももてる王太子(ウェールズ公)でしたが、その弟アルバート(Bertie、ヨーク公)はつねに兄と比較され、シャイでどもり、学業成績は68人中68位、病弱、泣き虫。めだつ兄の陰にあって、親にもナニーにさえバカにされていたとのこと。生来の左利きを無理に矯正されたことも、どもりの誘因だったようです。ここまではよく知られています。第1次大戦における海軍士官としての従軍も含めて、ODNBにはしっかり書きこんであります(Colin Matthew 執筆)。これを克服するために妃エリザベスの献身のあったことも、第二次大戦中の(自明の悪ナチスにたいする)国民的な戦意高揚のための行脚も、周知の事実。
 ところが、兄エドワード8世の「世紀の恋」のとばっちりで、もっとも不適格とみられたアルバートがジョージ6世として王位を継承するわけですから、confidenceを欠くアルバート=ジョージの、どもりはますますひどくなる。ここで登場するのがオーストラリア人 Lionel による言語治療 兼 カウンセリングなわけで、王族の親子関係からイギリスの階級関係、そしてすでに自治国のはずのオーストラリアにたいする差別意識までが上手に扱われて、この映画をおもしろくします。ちょっと Pygmalion=My Fair Lady のヒギンズ教授を思わせるところもないではない。
 英国王といっても、ジョージ6世の正式の称号は、king of Great Britain, Ireland and the British dominions beyond the seas, and emperor of India です。複合国家の王+インド皇帝。即位時にすでにアイルランドは独立しているのに!
【それからジョージ王も兄エドワードも Lionelも freemason だった[それのみが3人の共通点だった]という事実は、この映画では[単純化のために?]見逃されます。】
 映画のコリン・ファースの立派な体格のあたえるイメージと違って、国王ジョージは見るからに神経質で、胃腸も弱そうでした。1939年、小柄のかわいらしい王妃エリザベスと一緒の写真は、こちら↓
→ http://www.flickr.com/photos/striderv/2407182783/
 この映画を100%楽しむには、シェイクスピアの favourite quotes が頭に入っていることが必要かもしれません。もう一つ、映画音楽として前半はモーツァルトが使われ、後半の大事なところからベートーヴェンに変わることにも気付かされます。ラジオのことを wireless と呼んでいたこと、日本の玉音放送と違って、ライヴで放送されたことも大前提ですが、とにかく交響曲7番の第2楽章を背景に、どもる国王の大スピーチを聴いて涙しない聴衆は、よほど鈍感な人でしょう。スピーチの終わると同時に、BBCの職員、バキンガム宮殿の職員、ラジオに耳傾けていた市民のあいだで自然に拍手の波が広がることになり、音楽はピアノ協奏曲5番(emperor!)の第2楽章に替わる! 心にくい演出。

 来たる2月26日に一般公開だそうですが、すでに出来上がっているパンフレットに監修者=某大学教授がしたためた小文は、残念ながらフツーの高校生の感想文のレベルです(ウェブの世界の雑文と大差なし)。せめて、スピーチとは「演説」以前に、話すこと、言語能力、話しかたでもあるということくらい、指摘してもバチは当たらないのに。それから、きっとせわしなく視聴なさって、シェイクスピアもベートーヴェンも聞き流したのでしょう。
 
 結論。アカデミー賞を取っても取らなくても、これは感涙の作品。日本版監修者がだれであれ、ODNB を読んでから、ぜひ見に行きましょう。当然ながら、Lionel Logue の項目もあります。
→ http://www.imdb.com/video/screenplay/vi752421145/

2010年12月23日木曜日

冬至の満月


 満月の21日は、雨でお月さんを見ることができなかったので、昨22日、ほぼ満月の本郷構内を撮りました。手前の全身像が Conder (1852-1920), 向こうに小さくみえる胸像が West (1847-1908). どちらも工部大学校(帝大工科大学)の創設期の重要なイギリス人お雇い教師です。

 美しい光景ではありましたが、月を撮るのは、コンパクトカメラではむずかしい。

2010年12月19日日曜日

Illuminated!


 例年、クリスマスから新年にかけて医学部本館のイルミネーションが行われ、夜間に図書館脇から経済学部裏手を通過する者にとっての楽しみです。17日(金)の午前中に、医学部前でなにやってんだ‥‥と不審な男女グループを目撃しましたら、夜にはご覧のとおりとなりました。
 新年の御用始めまで点灯するから、2011 なんですね。
 昨冬の様子は、こちらです↓
http://kondohistorian.blogspot.com/2009/12/merry-christmas.html

2010年12月15日水曜日

『二宮宏之著作集』全5巻



 全5巻、2月8日から隔月(つまり偶数月)で、岩波書店の刊行です。
 その宣伝パンフの写真が、すばらしい。こちらをまっすぐ見つめて、おだやかに、容赦ない。
だれか若い人が「ニコニコしてる」と評しましたが、そうではない。知的なのです。
「フッフッフ、‥‥近藤くん、青空を眺めるためにここに来たんじゃないね。
やはり、△▼△ は止めにしましょう。」

2010年12月12日日曜日

『イギリス史研究入門』は品切れ状態?


 写真は University College London (UCL:『研究入門』pp.11, 132 をどうぞ。伊藤博文、夏目金之助の大学でもあります。)

 さいわい、この共著は好評で【掲示板でのコメントは → http://kondo.board.coocan.jp/】、
品切れ状態の小売り店もあるようです。だからといって直ちに増刷に走らないのが、山川出版社の堅実経営。日本の再販・委託販売システムゆえに、売る気のない特定の小売店に配達されたまま開箱されず倉庫に積んであった物が、3カ月の期限まぎわにドカンと返品されてくるかもしれないのです。
 ベストセラーを作ったのに(ベストセラーゆえに)やがて潰れてゆく出版社は、ほとんどこのパターンに眩惑されて、どんどん増刷し、返品の山を作って、その重みに潰れてしまうようです。恐ろしい。
 したがって、2刷は必ず出るようですが、そのタイミングをいま量っているとのこと。

2010年12月11日土曜日

積雪か?


 本郷の銀杏並木は黄葉が散り敷いて、こんなぐあい。↑
 夜、ほかのことで頭が一杯のまま、扉を開けて外に出ると、路面が明るく輝いて、一瞬、雪が積もったのか?と驚くことがあります。滑らないように気をつけながら歩くというのも、積雪のときと似ています。
 工学部 建築学科前の広場で銀杏をバックに一番さえるのは、Josiah Conder 先生。↓ コンダを 明治の人はコンドルと聞いたんですね。コンドーと聞こえてもよかったのに。

2010年12月7日火曜日

歴史学が元気


 11月から12月へ、いつどのように替わったのかわからぬうちに、師走も第2週です。皆さまには迷惑の掛けどおしで、申し訳ありません。
 そうしたなかにも来日中の Pat Thane (KCL) とゆっくり昼食をともにすることができました。
 こういうウェブサイトが始まっているんですね。
→ http://www.historyandpolicy.org/
いただいた British Academy: Policy Centre 刊行のブックレット Happy families? History and family policy (Oct. 2010) もそうですが、イギリスの歴史学は元気。

2010年12月2日木曜日

『伝統都市』

 全4巻のシリーズ完結を記念して、シンポジウム・合評会が4日(土)、5日(日)に予定されています。東大工学部にて。「ふるってご参会ください」と宣伝されています。
http://uhsj.itolab.org/event:201012sp

 なおまた、これに関連して当サイトにも、昨日コメントがありましたが、この blogspot の場合、新しい発言があっても、そのスレッドは元の日付の位置からは動かないので、見過ごされてしまうかもしれません。
→ こちらです:http://kondohistorian.blogspot.com/2010/06/blog-post_05.html