2019年5月25日土曜日

歴研

5月26日(日)は歴史学研究会大会の合同部会@立教大学。9:30から17:30まで、全日シンポジウムです。
去年の合同部会からの続きですが、「主権国家」再考 Part 2 という設営で、
皆川 卓 さん「近世イタリア諸国の主権を脱構築する:神聖ローマ皇帝とジェノヴァ共和国」
岡本隆司さん「近代東アジアの主権を再検討する:藩属と中国」
という2つの報告があります。これにコメンテータとして、大河原知樹さんと近藤が加わります。
フェアバンクによる華夷秩序・朝貢条約システム・主権国家体制
という定式は、アヘン戦争前後の清 ⇔ 列強関係を説明するには「分かりやすい」が、この定式化にはいろんな問題が内包されています。オリエンタリズムの歴史学版でもあるけれど、なにより - 西洋史の観点から言うと -「条約システム」や「主権国家体制」が(政治学や国際関係論の授業のように)議論の大前提になっている点が問題の始まりだろうと思われます。
西洋列強の覇権、国際法もまた歴史的な産物で、それこそ中世末から、とくに16世紀からのヨーロッパ内の事情、対外交渉によりゆっくり形成されます。ウェストファリア条約(1648)でバッチリ確立するわけではない(しかし17世紀はたしかな変化の世紀ではある)。16世紀~18世紀の戦争と交渉のノウハウ、啓蒙と産業革命を手にした西洋列強は、1790年代には、かつての豊かなアジアへの野蛮な遅参者ではなく、自信満々の近代人としてアジアの秩序に挑戦します。「その先頭にはイギリス人が立っていた」のです。『近世ヨーロッパ』(山川出版社、2018)pp.6, 14, 86, 88. この事実の歴史性を忘れてはならない。
なおまた、このときアヘン戦争前の清朝は、東アジア朝貢秩序の最盛期にあった、というのがフェアバンクの早い時点からの問題意識でもあったらしく、このへんは専門家に尋ねたいところです。

24日、メイ首相の辞任表明とか、いろいろ事態は動いていますね。26日、トランプ大統領の大相撲桟敷席観戦は、無理しすぎと思います。これらについては、また。

2019年5月20日月曜日

ジャコバン シンポジウム

 19日(日)午後、静岡大学においける小シンポジウム「革命・自由・共和政を読み替える - 向う岸のジャコバン」は、当日直前までハラハラしていたわりには、「案ずるより産むは易し」でした。有機的に連関して、かつ発展の芽がみえるセッションになったのではないでしょうか。ぼくも第1報告を担当しました。
 終了後にある先生から、チーム内の考え方の不一致というより多様性を指摘されました。それは認めますが、そうした点はネガティヴよりはポジティヴに受けとめてほしいと思いました。なにより
1) シンポジウムとして、各報告間とコメント間にたしかな共振・呼応関係があり、
2) (18世紀やモンテスキュはもちろん)いくつか重要で大きな論点が開示され、それを我々も出席者も持ち帰っていま再考=熟慮中という事実に、発展的な可能性をみるべきではないでしょうか。

 たとえばですが[古代からの継続・近世史のイシューについては、すでにいろんな方々が問うておられますので、近代以降を展望しますと]、
・厳密な「ジャコバン主義」は歴史家の概念として、(1793-4年の)山岳派・ロベスピエール(そしてバブーフも?)の言説・思想から抽出した理念型として、考え用いるべきでしょう。
・理念型としての「ジャコバン主義」においては18世紀から革命へと(近代的)断絶がみられますが、広汎な向う岸の「ジャコバン現象」においては res publica も君主政も19世紀へと連続しえた。しかも、こうした異質の両者が1790年代には共振する情況・関係がありました。
・19世紀にはイギリスが、ジャコバン主義的近代もウィーン体制も拒絶しつつ、経験主義的な改良を重ねて Pax Britannica の世界秩序を築きあげる。その国のかたちは君主政・貴族政・民主政の混合政体で、しかも自由放任です。
・こうしたイギリス型近代に対抗すべきフランス型近代は、清明な合理主義による統制をめざすとみえてもストレートには行きません。体制転換(革命やクー)を繰りかえしつつ、パリコミューンを鎮圧した第三共和政で、ようやく1789年/93年的なフランス革命が国是とされます。フランス史における contemporain=近現代=革命体制の遡及的措定ですね。
・上海租界地などで今も19世紀半ば以降のイギリス型近代とフランス型近代の競争的な共存を目撃し再確認できますが、共通の敵/市場に対峙する列強=英仏の協力関係、それを補完するようにナショナルな様式を顕示した建築やデザイン -

 こうした議論もいくらでも展開できるでしょう。
 ぼく個人としては
長い18世紀のイギリス その政治社会』に結実したシンポジウム(2001年@都立大)、
礫岩のようなヨーロッパ』に結実したシンポジウム(2013年@京都大)
を想い出しつつ、前を向いています。

2019年5月16日木曜日

近代社会史研究会(1985-2018)

 ミネルヴァ書房より『越境する歴史家たちへ:近代社会史研究会(1985-2018)からのオマージュ』到着。谷川稔・川島昭夫・南直人・金澤周作の四方による編著ですが、「近社研」という京都の集いの生誕から消滅まで、[序章]谷川稔の語り、[第一部]何十人もの関係者の語り、[第二部]記録篇、という3つのレヴェルを異にした証言が編まれて、独特の世界=小宇宙が再表象されています。
 ぼく自身も書いていて「1986~98年の近社研」との個人的かかわりをしたためていますが(pp.172-175)、別に何人かの方々の証言のなかで一寸言及されていたり、また(川北・谷川論争の翌月なのに、何もなかったかのごとき)ぼく自身の「報告要旨:民衆文化とヘゲモニー」(pp.330-331)が採録されていたり、‥‥そうだったなぁ、という感懐をもよおす出版です。
 近社研の運営にはいっさいかかわることなく、ゲスト・一出席者としてのみ関係したわたくしめなので、漏れ聞いていた諸々と、今回の編集出版のご苦労には頭が下がります。
 歴史学方法論ということでは、記憶と記録の交錯、ひとの記憶や記録と出会い、それが繰りかえされることによる「上書き」、そして「フェイク・ヒストリー」の可能性にまで谷川さんの「あとがき」は言及しています。金澤「あとがき」では「史料編纂‥‥、非常に貴重な体験」と表現されています。たとえば1987年初夏に名古屋で、福井憲彦さんの『新しい歴史学とは何か』の書評会をやって、若原憲和さんとヤリトリがあった事実などは、ぼくは完全に忘れていました!
 この出版の企画を最初に聞いて執筆を依頼されたときには、「いまさら」という気もないではなかったのですが、一書として公刊されてみると、やはり出てよかった、と思います。谷川稔という人、そして色々あっても彼を盛り立ててきた良き友人たちのこと(そして、そうした時代)を理解するよすがにもなります。関係者の皆さん、ありがとう!

2019年5月15日水曜日

わが家にも詐欺師の魔手が

本日、朝日生命大手町ビルの「一般社団法人全国銀行協会」から封書が家人あてに届きました。
[重要]という赤字の印、「宛名をご確認の上開封してください」という注意書き、そして正確な住所・宛名。「元号の改元による銀行法改正のお知らせ」に始まる丁寧な文章‥‥。これは真正の通知文なのかとおもわせる雰囲気。
ただし、持って回った文体で、一読しても何を言ってるのかよく分からない。「全国銀行協会加盟銀行にて口座開設をされているお客様」あてなのに、家人あてに来て、ぼくあてには来ないのはなぜ?。
そもそも「改元に伴い、セキュリティ強化の観点から新システムへの変更を行っております」というあたりから、マユツバ。「当銀行協会にて口座開設時の登録情報のご確認、キャッシュカードの暗証番号変更手続きをおこなって頂く様[ママ]お願い申し上げます。」というので、これは詐欺だと分かった。漢字変換も乱れて、本当の「全国銀行協会」にしては品格がない。

「尚2019年5月17日までに登録情報のご確認、暗証番号の変更手続きがお済みでないお客様に関しましては‥‥お口座のご利用を停止させて頂く場合がございます。」
今日は何日だと思ってるの? こうやって急がせて、子や信頼できる人に相談する暇を与えない、というテクニックなのでしょう。
ご丁寧にも
「当銀行協会加盟銀行におきましては、お客様にお電話口で暗証番号等をお聞きすることや、キャッシュカードを郵送にてお送りいただくような[ママ]ことは決して御座いません。」とそれらしく朱書してあります。ということは、三菱やみずほや三井ではそんなことはしないが、フェイクの「全国銀行協会」ではIDを聞き出したり、郵送を依頼したり、受け子を遣わすことがございますよ、という意味ですね!
とにかく慌てた消費者が 03-572*-920* という番号に電話してくれば、トンデ火に入る夏の虫、あとはノラリクラリと個人情報を引き出すのでしょう。
念のため検索してみると、この電話番号についての問い合わせが今日15日から突然に急増しています。

すでに真正の一般社団法人全国銀行協会(↓)には、注意喚起の記事が出ています。
https://www.zenginkyo.or.jp/topic/detail/nid/3564/
また本当の全国銀行協会の相談室の電話番号は、上のものとは全然違います。

みなさま、そしてみなさまの親御さんには、どうぞご留意のほどを。
詐欺師も生活がかかっているので(!)あの手この手でアプローチしてきますね。
そもそもわが家の住人・住所が正確に掌握されているということからして、許しがたい。

2019年5月11日土曜日

Brexit → Brexodus を歴史的にみる


 昨日はある集まりで「イギリスとEU: Brexit を歴史的にみる」というお話をしました。参列者は、みなさん情報・通信のプロ、またヨーロッパ駐在の長い方々もいらして、講師としてはやや冷や汗ものでした。こちらは例のとおり先史(氷期)の大ヨーロッパ大陸から説きおこし、『イギリス史10講』や『近世ヨーロッパ』でも使った図版に加えて、ナポレオン大陸封鎖の図、ドゴール、イギリスEEC加盟申請に拒否権行使といった経緯、そして現EUの二重構造、英連邦(Commonwealth)の三重構造なども見ていただきました。
 質疑応答の質も高く、お話ししているうちに、権力政治に振り回された EU離脱、連合王国解体、といった暗い将来も British diaspora という観点から考えると、案外、人類史にとっては明るい要因なのかも、と思えてきました。要するに現イギリスに集積している金融および高等教育における人材が流出してしまうこと(Brexodus)による、主権国家=英国の枯渇・衰微はしかたないとして、かつてのユダヤ・ディアスポラやユグノー・ディアスポラ、アイリシュ・ディアスポラ・また20世紀のインド人やチャイニーズのディアスポラのように、不運な祖国からの離散が続いたとしても、新しい新天地で広い可能性が花開くかもしれないのです。その新天地はフランクフルト? オランダ? シンガポル? コスモポリタンで、新次元の文明の地。
 お雇い教師がやってきた明治初期の日本も一つの成功例でした。21世紀の日本列島が British diaspora の新天地となるか? 今のところ中国に比べてもその可能性は低いとみえますが‥‥

2019年5月9日木曜日

Queen Elizabeth と三内丸山遺跡

連休の最後に青森に参りました。
遅い桜花を見るためにではなく、旧友に会うためでした。諸々の話をすることができて良かった。
初日は雨模様でしたが、2日目はなにより天気にも恵まれ、ちょうど Queen Elizabeth 号が青森に初めて寄港するという特別の日だったようで、港では「メルバン」から来てヴァンクーヴァに向かうという老夫婦とお話をし、また波止場の展望台の上から俯瞰しました。反対側に雪の八甲田連峰および岩木山も遠望できました。
午後は三内丸山遺跡に同行して(これは1994年『中学歴史』[東京書籍]の編集執筆をして以来の宿題!)ボランティア説明者とのやりとりが有益でした。栗の大木6本の建築物の下方から、はるか八甲田山を遠望できます。
なおまた隣接する青森県立美術館では、棟方志功の若き無名時代のエピソードも聞くことができて、楽しかった。