2015年11月15日日曜日

イギリス近世・近代史と議会制統治

収穫の秋、ということでしょうか。ぴたり関連する出版が続きます。

青木康(編)『イギリス近世・近代史と議会制統治』(吉田書店、2015
http://www.yoshidapublishing.com/booksdetail/pg670.html
10名の科研プロジェクトによる、16世紀から19世紀半ばまでのイギリス史の「詳細で実証的な個別研究」の論文集です。
  第Ⅰ部 代表制議会
  第Ⅱ部 海洋帝国の議会
  第Ⅲ部 議会制統治の外縁部
に分けて計11の章がありますが、序、第2章「18世紀イングランド西部の下院議員」、第4章「ブリッジウォータの都市自治体と1780年総選挙」が編者青木さんの執筆。

 「序」のあと、まずは最後の Jonathan Barry の「コメント」に惹きつけられて読みました。
これは日本の読者むけに有益な動向サーヴェイであるばかりでなく、そもそも1832年以前の議会・政治・統治というものをどう捉えるべきか(とくに pp.305-11)、重要な指摘を明晰に呈示している論文ですね。またイギリスの特異性・近代性だけにとらわれることなく、広くヨーロッパの「複合諸王国(composite monarchies)とその連邦的構成」のうちの一つとして認識すべきであるというパラグラフには、註(2)として、ケーニヒスバーガ、エリオット、そしてラッセル、ヘイトンが挙がっています。共著『礫岩のようなヨーロッパ』を準備しているところなので、いちいち肯きながら読みました。
ただし訳文は、センテンスの息が長すぎて、ときに苦しくなる箇所もないではない。英語と日本語は構文が違うので、すこし短めに複数のセンテンスに分けて接続を確認しつつ訳して下さると、短気な読者にもわかりやすくなったろうと思われます。
またバリーの最後の一文(p.311)は、わたしたち「異なる政治体制のもとで暮らしイギリスの経験を冷静に見ることができる」日本人歴史家の問題意識を評価しつつ、この出版をことほぐ賛辞かと思われます。訳文ではそれがちょっと曖昧。

巻末の「人名索引」は歴史的人物に限定されていますが、13ページにわたり入念にできあがっています。

というわけで、あいつぐ有益な出版ですが、先の『国制史は躍動する』にくらべると、タイトルが実直すぎて、メッセージ性がちょっと不足します。「議会制統治」というのがキーワードでしょう。困ったときには英語にしてみて再考するというのが、むかしから青木さんのお知恵だったと思いますが、今回の英語タイトルは、いかに?

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