2016年6月22日水曜日

EU, in or out?

イギリスが EUメンバーに留まるか、離脱するか。
歴史家として、これは自明の問いだったので、あまり本気で意見を言ってきませんでしたが、連合王国内で、ここまで離脱派の勢いが高まり、そして残留派の国会議員を殺傷する事件まで生じると、危機感をもちます。

日本のマスコミは、経済的効果、ブリュッセル・エリートへの反感、といったことに関心を集中させていますが(それだけ考えが浅い)、それらに加えて、人びとのアイデンティティをめぐる感情の問題も大きい。「政治国民」political nation とは歴史的に(19世紀半ばくらいまで)地域エリート以上のことでしたが、現代では一般有権者大衆です。

ところで第1に、そもそも referendum を「国民投票」と訳してよいのでしょうか。特定問題についての選択肢を明示した上での直接投票のことを中学社会で「レファレンダム」とならい、高校世界史や公民では「人民投票」plebiscite とならうのではないでしょうか? 2014年のスコットランド独立を問うレファレンダムは「住民投票」と訳して、今回は国民投票と訳して、マスコミ関係者は良心の呵責といわないまでも、小さな疑問くらいは感じないのですか?
第2に、人はソントクだけで判断し、動くわけではありません。いまの日本列島でいえば沖縄の人たちが感じている「憤り」とスコットランド人が覚えた感情は似ているでしょう。
今回のレファレンダムにあたって離脱派は、生活上の疑問・不満をあおって「憤怒」にまで高めようとしている。その明日は、内向きで分裂したイギリス(連合王国)です。ものつくりやサーヴィスよりも金もうけに執心する人びと。人類史・文明の来し方行く末を考えることより、直接的で感性的な小宇宙での充実がまさっているようです。

連合王国の新聞の論調ですが、その全国5大紙はちょうど日本の全国5大紙と類似しています。
     The Times読売新聞   Leave(保守本流), NATO堅持
   The Guardian* ~ 朝日新聞   Remain=「投票に行く、残留する」
The Financial Times日本経済新聞   Remain=世界資本主義の立場
  The Independent毎日新聞   唯一不明(?), 中立主義
The Daily Telegraph産経新聞   Leave(右翼)

* その日曜紙は The Observer で international, liberal and open Britainを主唱。
 この点は、たとえば1997年の「ゼノフォビアよ、さよなら」から一貫します。 cf.『文明の表象 英国』pp.218-9.

なぜか今のアメリカ合衆国の反知性主義キャンペーンに似てきたとすると、憂慮すべきことです。主権回復といった奇麗事、経済社会の問題を移民に絞りあげて人心を煽るのは、右翼の常套手段です。イギリスの有権者は不幸なコックス議員の殺害事件を機会に、落ち着いて知性を働かせるべきでしょう。もしブリュッセル官僚に問題があるなら、ヨーロッパ議会選挙にしっかり取り組むべきです。EUにおいても、立法が行政より上に立っているのだから。

というわけで、ぼくは民主主義、知性主義、ヨーロッパ文明、複合社会、そして反民族主義の立場から、EU堅持のうえでの改革派です。
Splendid Isolation とはパクス=ブリタニカの時代の自由主義外交の結果でしかない。イギリス人は「礫岩のようなヨーロッパ」のなかの一員であり、隣人と仲良くしないわけにゆきません。
イギリス(連合王国)がEUから抜けるなら、当然のように他の国々も続いて抜けようとするでしょうし、また連合王国からはスコットランド、ウェールズ、北アイルランドの独立運動が勢いづくでしょう。地域ナショナリズムの時代が賢明な時代とは、ぼくには思えません。The wise vote is for remain. ガーディアン紙も述べています。

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