メルケル・プーチン・大きな犬の関係性をしめす写真(p.48)、アメリカ心理学の教科書みたいな表情のならぶ写真(pp.213, 217)、‥‥「キス測定器」!? など文脈のわからないまま一しきり見渡したあと、訳者あとがき、用語解説を見てから、最初に戻り、卒読を始めました。
当初の期待はあまり大きくなかったこの本、読み進むにつれ、知的なおもしろさと ambitionの力強さに引き込まれました。博士論文がスターリン崇拝だったという Plamper(初めて聞く名です)が、序論ではアリストテレス以来の哲学を(再)吟味する必要を説き、第1章をリュシアン・フェーヴル(アナール学派)で始める意気込み、‥‥pp.400-2 の引用文のしばらく後には「歴史家はなぜ、文書館作業における自身の感情について、一種のフィールドワーク日誌をつけないのであろうか」と尋問して、読者に迫ります。あとがきによると、本書は歴史学の史学史(来し方行く末)、19世紀以来の諸学問の歴史(これから)「としても読める」とのことですが、むしろ積極的に、それこそが著者の狙いだったのではないか、とさえ思えます。ドイツ生まれ、大学・大学院は合衆国、その後またドイツで、今はロンドン大学教授。 圧倒的な本です。ブツとしても432+144ぺージ+前付き、後付き。すなわち600ぺージの存在感、退屈しません。
→ 著者・共訳者たちの紹介はこちらに:https://www.msz.co.jp/book/detail/08953/関連して思うのは、 a)アメリカの学界(東海岸、西海岸)の先行性と土壌の豊かさ。引用されている中世史の Rosenweinも、フランス革命の Huntも、アメリカ人で外国史をやって世界のその分野を領導するような存在になりました。ここに出てこない N. Z. Davisも! 逆にヨーロッパ人でヨーロッパ史をやっている研究者も、おもしろい研究をする人は必ずのように何年か何十年かアメリカで過ごす(Kocka, Frevert, Elliott, Koenigsberger, Brewer . . .)。日本生まれの研究者でもノーベル賞をとっている人の過半はアメリカ在外生活。ちょっとこれにはかなわない!という気になります。
とはいえ、b) pp. 314, 325あたりでも指摘されるように、アメリカ中西部・キリスト教原理主義のルサンチマン、反啓蒙性 -つまりトランプ以前のトランプ現象- は厳として存在しています。この本の初版は2012年、英訳は2015年とのことですから「東西両海岸の左派リベラルにとっての「通過飛行地帯」」(p.314)の深刻な問題性は、まだ示唆にとどまったのでしょうが、いまや恥ずかしげもなく世界に報道されています。7000万票も集める大問題です。
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