2010年12月26日日曜日

Amazing Grace 映画


           図像は Wikimedia Commons →

映画「アメイジング・グレイス」について、「ウィルバーフォースと友人たち」という題で、要旨、下のようなことをしたためました。来春3月5日から一般公開されるときに、頒布パンフレットに載ります。あらかじめ、ほんの一部を抜粋してご覧に入れます。

 テーマは、激動の時代における人の生き方と信仰、友情、政治と正義。主要な登場人物は実在の4人です。

 主人公ウィリアム・ウィルバーフォース(ウィルバーと呼ばれ続ける)1759~1833
 その親友ウィリアム・ピット(24歳で首相) 1759~1806
 ホウィグの怪物政治家、チャールズ・フォックス 1749~1806
 奴隷貿易船の航海士であったジョン・ニュートン 1725~1807

彼らについて歴史的な知識があると、映画のおもしろさは倍増するでしょう。もちろん全員、ODNBに項目があります。
 奴隷たちの亡霊に囲まれつつ、回心したニュートンの作詞した賛美歌が「アメイジング・グレイス」です。
 「すばらしい神の恵み
  私のようなヒトデナシも救ってくださった。
  かつて私は道に迷っていたが、神は見いだしてくださり
  かつて目の見えなかった私だが、今は見える」

 18世紀~19世紀の初め、
   カリブ海の西インド諸島 ⇔ アフリカ ⇔ イギリスなど西ヨーロッパ諸国
のあいだの三角貿易とイギリスの産業革命が表裏一体だったことは、最近の世界史の授業では常識かもしれない。「アメイジング・グレイス」に歌われるような回心と改革の Evangelicalism は、まだ常識ではないでしょう。女性作家ハナ・モアは、英文学関係者には知られていますね、大石さん。
 福音伝道主義者が取り組んだいくつもの課題のうち、奴隷制および奴隷貿易の廃止をめぐって、これを男の友情として描いたのが、映画 Amazing Grace だと言えるでしょう。ケインブリッジにおけるぼくの先生 Boyd Hilton, そして友人 Joanna Innes の研究テーマでもあります。(12月18日イギリス史研究会の) moral economy 論もまた、この転換期をどう理解するかといったことに極まります。
 もっとも良い参考文献は、『イギリス史研究入門』の5章(長い18世紀)、6章(19世紀)、10章(議会)、11章(教会)、12章(帝国)でしょうか。

 時代考証をふまえた映像情報もゆたかで、男女の衣装も、婚活マインドも楽しい。ジェイン・オースティンを連想する人も少なくないでしょう。温泉都市バースにおける社交、議会の本会議場における討論のテンポとウィット、558名いるはずの議員が重要案件の議決にさえあまり出席しないという事実、本会議場の別棟にあったクラブの様子もまた、印象的。
 ピットは享年46歳、首相在任中に過労死。ライヴァル、フォックスも同じ1806年に死にます(56歳)。ところが闘病をくりかえしていたウィルバーのほうは、結局、74歳まで生きながらえます。映画の前半の「結婚は愛と健康をもたらす」という従兄弟ソーントンの言は、伏線として置かれていたのでしょうか。
→ http://www.imdb.com/video/screenplay/vi330694937/

2 件のコメント:

近藤 さんのコメント...

 字幕に一箇所、間違いがあります。
前半、1782年のピットとウィルバーが二人で政権の行方を論じているところで
「ブロッキンガム侯爵」とありますが、正しくはロッキンガム侯爵です。
 青木さんの年来のテーマでした。

近藤 さんのコメント...

 いよいよ3月5日(土)に公開とのことで、日本版パンフレット『アメイジング・グレイス』の見本を昨日落手。
 署名記事としては、池辺晋一郎さん、石橋秀雄さん(日本基督教団総会議長)とならんで、ぼくが書いています。
 それに加えて、見開きの年表、そしてキャストの8名の歴史的人物についての略伝もあり【ただしどちらも編集部の作成】、おっと、これは来年度の教材として使えるかも、と思いました。少なくとも最後の見開きA3の庶民院本会議場の写真は、これだけで90分の授業ができる、すばらしい素材です。