2022年11月4日金曜日

西洋史学の出版の今とこれから

 昨3日(木)には、京大の西洋史読書会大会で、シンポジウム「西洋史学の出版の今とこれから」 https://www.bun.kyoto-u.ac.jp/european_history/eh-dokusyokai-new/ があり、Zoomにて視聴しました。多くの関係する方々の十分な協力があってこそ実現したのだろうと想像されますが、すばらしい企画でした。
 個人的経験として、一著者が幸運にも有能な編集者・出版人と知りあって、一緒に仕事する過程でいろいろな助言を得て、学習し、ゆっくり育つということはあったでしょう。【ヴェテラン編集者の場合は、逆方向のヤリトリで学習をくりかえしつつ、逞しく育つのでしょう。】しかし、今回のように4種の出版について、それぞれ編集者=著者間の良き友情もうかがわせつつ、経験と教訓が公共的に語られたのは稀有なことです。若い研究者には未知の世界を垣間見た思いでしょう。
 感動のあまり、一人の胸に収めることあたわず、以下、順不同で感想を述べます。

・佐藤公美さんは(他の問題とともに)何語で書くかという論点を呈示され、これはまじめな外国史研究者の悩んできた問題です。もうすこし(別の機会にでも?)語り合い、深めるべきかと思いました。
 また専門論文は、著書という形でなくとも、専門誌や論集への寄稿という形での publication があるわけで - そのほうが読まれる機会も相対的に多かったりして -、ガチの専門書出版は、助成金なしには難しいですね。とはいえ、佐藤さんの報告は多岐にわたりましたが、「文体」の指摘も含めて、もっとも深く考えられた感動的なものでした。心ゆさぶるものがありました。

・白水社の糟屋さんが、出版サイドの判断として、厚い本だからといって困るとは限らない、むしろ薄くて苦労することもある、とは眼から鱗でした! コスト計算が合理的に成り立ち、内実のともなう本でさえあれば、良心的な出版社は OK してくれるのですね。内実しだいというのは、心強い。

・金澤周作さんも言われたとおり、一般学生(あるいは積極的な高校生)にとって新書は学問(考えること)への良き道案内です。岩波書店の飯田さんの巧みな表現によれば「観光案内」なのですから、ぜひ実力ある執筆者にはまじめに/本気で取り組んでほしいと思います。じつは一般学生や読者だけでなく、他分野の専門家にとっても、岩波新書は最初に頼れる導師、信頼できる博識な「観光ガイド」なのです。
 ただし、たとえば柴田三千雄は中公新書と岩波新書を書いたけれど、二宮宏之は書かなかったというように、向き不向き/ときどきの巡り合わせはあるでしょう。それにまた、新書ばかり量産している方は、あまり近くに居てほしい人ではありません‥‥。
 ポイントはむしろ新書かどうかよりも、低価格の(今日では2000円未満くらい?)、しかも目に止まりやすい出版が、ひろく知的に飢えた若者向けに必要なのだと思います。小山哲・藤原辰史『中学生から知りたいウクライナのこと』の場合は、迅速な公刊という点でも、特別な賞賛と推奨に値する出版でした。

・井上浩一さんと江川温さんのやりとりから展開して、討論されたとおり、翻訳および新書の苦労と成果についても、しっかり踏みこんだ、批判的な書評がぜひ必要というのは、大賛成です。

・最後の松本涼さんがアウトリーチ、「協働」について具体例を紹介してくれました。ぼくにはちょっと別世界の感がありますが、それぞれの世代、それぞれの感性にたいするアプローチは必要でしょうね。ただしぼく自身が関われるのは、せいぜいブログまでです!

 感激のあまりの、妄言多謝です!

0 件のコメント: